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最終予選に向けて浮かび上がったハリルジャパンの大きな問題

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

5-0で勝利したシリア戦後の会見で、ハリルホジッチ監督は開口一番、「美しい夜だった」と試合を振り返った。

確かに、終了間際に怒涛の3ゴールを叩き込んだ末に手にした勝利の直後ゆえ、まだ興奮気味だったのも理解できないわけではない。また、就任以来、満員に埋まったスタンドのファンを初めて満足させられたという安堵の気持ちもあったのだろう。自画自賛とまでは言わないが、満足げに語りたい気持ちも分かる。

しかしその一方で、90分間を冷静に振り返れば、この日の勝利を手放しで喜べない現実もある。

アジア2次予選(兼2019アジアカップ予選)を無敗無失点での首位通過というパーフェクトな最終成績を残した事実は称賛すべきだとしても、どうしてもこのシリア戦で改めて浮き彫りになった問題点は見過ごすことはできない。そこだけは、試合終盤に一気に押し寄せた歓喜の波に飲み込まれ、忘れ去られてはいけないと思うのだ。

不可解な采配で露呈したメンバー固定の現実

まずひっかかったのは、後半10分。

ボランチの山口が空中戦でムバエドに危険なファールを受け、負傷退場した直後の出来事だ。

このときのスコアは1-0。優勢に試合を進めていたとはいえ、まだ1点差の場面だ。しかし、指揮官が山口の代わりにピッチに送り込んだのは、ウイングが本職の原口だった。

一瞬、長谷部をワンボランチにする4-3-3システムへの変更かと思われたが、原口が入ったポジションはボランチの一角。つまり、山口の代役としての起用だった。

「原口が中盤で使われた理由を皆さんは理解いただいているだろうか? (理由は)彼の役割が適応しているということ。彼が入って、多くのことをオフェンス面でもたらし、最後にはゴールまで決めてくれた」

試合後、ハリルホジッチ監督はその采配を自信満々に語ったが、同時に指揮官自身が「ただし、タクティクスはまだ少ない。なぜなら色々なところに行きすぎてしまうから」と言うように、守備面を考えれば、それはある種の博打的采配と言わざるを得ない。

実際、その後シリアはチャンスとばかりに攻勢を仕掛けた。香川の追加点が決まったことでその危うさが掻き消されたが、不慣れなボランチで正しいポジショニングが取れない原口が空けてしまったスペースから生まれた綻びは、試合終盤までシリアにいくつものチャンスを与えていた。

それだけで言っても、これが最終予選で使えるようなオプションにならないことは明らかだ。まずこの不可解な采配を、ポジティブに現れた部分だけを切り取って評価してはいけない。奇策が当たった、と捉えるのが妥当だと思われる。

そもそも就任してからの約1年間、このポジションのバックアップさえも見つけることができなかったことが大問題だ。

これまでの予選で、長谷部と山口以外にボランチで起用された選手は柏木、遠藤航、今回は招集外となった柴崎の3人。森重をボランチで起用するオプションがあるとしても、今回のメンバーで本職なのは長谷部と山口の2人のみ。

最終予選を見据え、この2次予選の間にいかに選手を発掘しておくかが現在の日本の課題だったことを考えると、目を背けたくなるような現実である。

その他のポジションに目を向けても、それは変わらない。レギュラーは早くも固定されてしまったと言っても過言ではない。もはや、6年前の南アフリカW杯のメンバーの多くが、今回の最終予選も変わらず主軸となることは間違いなさそうな現実。

最終予選に向けた、大きな不安材料のひとつだ。

真のチーム作りが進まないまま最終予選へ突入

もうひとつが、ディフェンスの危うさだ。

2次予選では相手のレベルの問題で失点にはつながらなかったが、時折見せる大きな綻びは、最終予選で戦う相手のレベルになれば、致命的なミスとなることは必至だ。アウェイでのカンボジア戦で何度も見られたカウンターに対する守備は、このシリア戦でも放置されたままだった。

たとえば前半28分と42分のシリアのカウンターは、その典型的な例だ。また、後半にも何度も悪いボールの失い方をして、相手の速攻からピンチを招いていた。

相手の1トップに対して、センターバック2枚だけで安全に対処することができないのが現状だとすれば、両サイドバックやボランチが揃って高い位置でプレーするのは止めなければならないだろう。誰か1人が後方に正しくポジションをとり、確実に攻撃を弾き返す態勢を整えておく必要がある。

少なくとも、紙一重の戦いが続く最終予選では、この問題を放置していれば、カウンター対策という問題だけにとどまらず、ディフェンスの崩壊という事態を招くことも十分に考えられる。ザッケローニ時代のアジア予選では、あれほど徹底されていたのだから、ほぼ同じメンバーで戦っている現在、選手がそれをできないはずがない。

指揮官の指示が甘いことも問題だが、このレベルのことは選手が自主的に修正できなければ、とてもワールドカップ本番で勝つことなど望めない。

「オーガナイズをキープすること。攻撃時に、それをどうキープできるか。ゲームをコントロールするという意味で、ディフェンスの厳しさを定着させないといけないが、我々はまだそのレベルに達していない」

ハリルホジッチ監督も今見えているディフェンス面の課題を把握しているようだが、4年前はそれが出来ていたという事実を我々は知っている。

では、なぜ今はできないのか? おそらく、これまで高いレベルの相手と試合が組まれていないため、課題はいつも「守備を固める相手に対してどう攻めるか」だけになっているからだと思う。

事実、アフガニスタンとシリアとの2連戦でも、現場やメディアで語られるのは攻撃面の課題に絞られていた。結局、ディフェンスの課題が見えないまま過ごしたこの1年間は、攻守の両面を同時にチェックする機会を奪い去ってしまったようだ。

サッカーは、常に好守が連動しているスポーツだということを考えると、実は何もチーム作りが進んでいないまま、最終予選を迎えるような気がしてならない。

日本を含め、今回のアジア最終予選に駒を進めたのは、イラン、オーストラリア、韓国、サウジアラビア、ウズベキスタン、UAE、中国、カタール、イラク、シリア、タイの計12ヶ国。4.5枠を競い合う最終予選では、イメージ的には日本がその枠外にはじき出される可能性は低いと思われるかもしれない。

しかし、実際の戦いは紙一重。とりわけ5試合もある今回のアウェイ戦は、いつも以上に苦しむことになるだろう。過去の最終予選と比べても、実力的に最も拮抗した戦いになることは間違いないからだ。

ハリルホジッチ監督も厳しい戦いになると何度も口にしているが、それがどの程度なのかは、おそらく彼にとっては未知なる世界だ。むしろ、指揮官よりも選手、ファン、メディアの方が知っている。

大事なところで失態を招かぬように、黄色信号が灯っていることを、協会は早く指揮官に伝えるべきだろう。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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