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夏の台風は停電でエアコン停止が切実な問題。タワマンは窓を開けられず、蒸し風呂になる?

櫻井幸雄住宅評論家
煌々と明かりがつく超高層マンション。台風による停電で、明かりはすべて消えるのか。(写真:アフロ)

 過去最強クラスとされる台風10号がゆっくり進んでいる。予想通りの進路をとり、勢力が衰えなければ、各地に大きな影響が出そうで、十分な準備と注意が求められている。その「注意」で、ひとつノーマークなことがある。

 それは、夏の台風で停電が起きると、エアコンも扇風機も使用できず、窓を閉めた室内は蒸し風呂状態になってしまうということだ。実際、夏に勢力が強い台風が度々やってくる沖縄では、「停電による蒸し風呂状態」に泣かされることが多い。

 本州に住んでいる人の多くが知らない「夏の台風がもたらす困った状況」とは……。

首都圏で多かったのは「秋の台風」

 近年、首都圏に被害を及ぼした台風として思い出されるのが、2019年の10月の台風19号。神奈川県の武蔵小杉駅周辺では台風による内水氾濫が生じ、一部のタワマン(超高層マンション)で電気室への浸水が発生した。停電が起きて、水道水を押し上げるポンプが使えなくなってマンション住戸に断水が発生。トイレが使えないなどの不都合が生じたのだ。

 その教訓から、タワマンに限らず、すべての分譲マンションで電気室の改良が行われた。新築マンションでは、浸水被害が生じにくい2階以上に電気室を設置する工夫も広まっている。だから、今回の台風で同じような事故は起きないはずだ。

 しかし、電柱が倒れたり、樹木が電線を切断したりするなどにより広範囲の停電が起きる可能性はある。

 停電が起きたとき、夏はいろいろな問題が生じてしまう。

 2019年の台風19号は秋の台風で、今回は夏の台風だ。首都圏に、夏の暑い時期に最強クラスの台風が来るのは珍しい。多くの巨大台風は9月以降にやってきた。

 珍しいだけに、想像しなかった被害が生じる可能性がある。

 2019年秋の台風19号でトイレが使えなくなったタワマンが生じたことも、事前に想定した人はいなかったのである。

夏に停電が起きるとエアコンが使えない

 前述したとおり、夏の台風が頻発する沖縄で、住民が恐れるのは停電が起きてエアコンが使えなくなること。強風と横なぐりの雨で窓を開けることもできないので、窓をしっかり閉める。すると、湿気と暑さで室内が蒸し風呂のようになってしまう。

 その場合、暑さしのぎでできるのはうちわで扇ぐくらい。ただ耐えるしかないのだ。

 今回、同じようなことが、首都圏でも起きるかもしれない。そして、停電でエアコンが使えず、室内が蒸し暑くなったとき、一番困るのはタワマンかもしれない。というのも、ただでさえ風が強くなるタワマン周辺では台風の強風が増し、ほんの少しでも窓を開けることができない事態が考えられるからだ。

じつは、沖縄では停電しにくいタワマンも

 「蒸し風呂のようになる」と言われたら、タワマンに住んでいる人は心穏やかではいられないだろう。しかし、それは「もしも、停電が起きたら」の話。実情はそんなに単純ではない。

 じつは、台風で停電が起きやすい沖縄においても、あそこは停電しないといわれているタワマンがある。

 那覇市の新都心と位置づけられる「おもろまち」エリアに建つ地下1階地上30階建て・2棟構成の「リュークスタワー」だ。

 このマンションは、台風により那覇市内で大規模な停電が発生したときも停電せず、明かりがついていた。

 といっても、リュークスタワーだけが停電しないわけではない。同マンションが建つ「おもろまち」エリア全体が停電しにくいのだ。理由は、新都心と位置づけられる場所は広範囲に電線の地下埋設が行われているから。地上に電柱・電線が出ていないので、電柱が倒れることや、樹木が倒れて電線を切ることがない。だから、台風でも停電が起きにくくなっている。

 「おもろまち」全体で停電が起きにくい。その中、遠くからもよく見えるタワマンに明かりがついているので、停電しない街の象徴になっているわけだ。

那覇市内の国際通り周辺から見える「リュークスタワー」。周囲が停電している中、このタワマンに明かりがついていたら、非常に目立つことになる。だから、憧れる人が多い。筆者撮影
那覇市内の国際通り周辺から見える「リュークスタワー」。周囲が停電している中、このタワマンに明かりがついていたら、非常に目立つことになる。だから、憧れる人が多い。筆者撮影

 電線を地下埋設した場所のタワマンは、台風のときも停電しにくい……これは、沖縄以外でも同様だ。

 じつは、タワマンが林立する場所は、電線埋設も行われているケースが多い。というのも、「タワマン」も「電線埋設」もスケールの大きな再開発エリアで実現しやすいからだ。

 たとえば、タワマンが林立する東京の湾岸エリアも広範囲で電線埋設が行われている場所のひとつ。そのため、台風により首都圏で広範囲の停電が起きたときでも、湾岸エリアのタワマンは明かりがついている可能性が高い。

 むしろ、広範囲の停電が起きやすいのは郊外の一戸建て住宅地のほうなのだ。

短時間の停電に耐える備えが必要

 電線埋設を行っていない場所……つまり、街中に電柱・電線が見える場所では、巨大台風によって停電が起きる可能性がある。

 現在、首都圏では電線埋設の場所が広がっているが、再開発エリア以外では、オフィス街や商業エリアが中心。停電が起きると、業務に支障が出やすい場所で優先的に電線埋設が行われ、郊外の住宅地は後まわしにされる傾向が強い。

 郊外の住宅地で電線埋設を行っている場所もあるのだが、まだ数は少ない。つまり、再開発エリアのタワマンより郊外の一戸建て住宅地のほうが、台風により停電リスクは高いわけだ。

 そのため、家のまわりに電柱、電線が見える場所では、台風による停電でエアコンが使えなくなる可能性を考えたほうがよいだろう。

 とはいえ、首都圏に来る台風は速度が速まっているので、長時間停電が続く可能性は低い。その点、沖縄を襲う台風は速度が遅く、停電の頻発が数日続くことがある。だから、沖縄では台風による停電を嫌う人が多いわけだ。

 首都圏の場合、停電の時間は短いので、数時間エアコンが使えなくなったときのための備えをしておけばよいだろう。

 たとえば、冷凍庫に保冷剤や凍らせてもよいペットボトルの飲み物を用意し、体を冷やすことができるようにする。また、スマホが電池切れにならないような工夫も必要。ちょっとしたことで、万一停電が起きたときの不自由さ、不快さは解消できるはずである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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