和菓子の世界にもSDGS。摘果桃を使用した「桃の香」で一炉庵さんの甘美な四季の美味しさに浸る
まるで清流の中を覗いているよう七月中旬から後半にかけて収穫がはじまり、迸るような果汁と耽美な芳香が魅力の桃。大きく立派に育つために行われる大切な作業がありまして、それが摘果。いわゆる間引きですね。その際に間引かれた実の行く末はどうなるのか、ご存知ない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
全部が全部というわけではありませんが、摘果された一部の桃の実は「青桃(若桃)」という名で取引されます。そして丁寧に種をくり抜かれた後、甘い甘露煮へと仕上げられます。この甘露煮はおせち料理にも添えられることもありますが、和菓子に使用されることも。
今回は、明治36年創業、文京区にお店を構え日本ならではの四季の移ろいを大切になさる老舗和菓子屋「一炉庵」さんより、その青桃の甘露煮がまるごと閉じ込められた涼菓「桃の香」をご紹介。
なんとも涼し気な風貌の逸品。一番上の細やかに刻まれた錦玉は、一見流れるような柔らかさのジュレにも見えますが意外と強かな弾力を持つ食感。寒天ならではの軽やかな弾力と甘味をあじわいつつ、そこから覗くのは丁寧に種が抜かれた青桃の甘露煮。渋みなどは皆無の、心地よく柔らかな桃の香りを漂わせつつ、どこかキュンとしてしまうような甘美な甘酸っぱさは丁寧な手仕事だからこそなせる技。果実感を残しつつ甘露煮に仕立てるのは手間暇がかかるんです。
さて、その下に広がるのは、白手亡や大福豆を使用した白餡の羊羹。こちらも青桃の清涼感を引き立てるような、慎ましやかながらもエレガントな味わい。錦玉、青桃の甘露煮・白餡の羊羹のコンビネーションにアクセントを添えるのが、丹波産白小豆。羊羹の中に散りばめられた白小豆の、素朴かつほくほくとした食感や風味は滋味深いアクセントとして、口の中に頭角を現した瞬間笑みがこぼれます。
SDGSという言葉を耳にするようになりしばらくたちますが、その言葉が誕生するずうっとまえから私たちの生活の傍らに存在していた青桃の甘露煮。勿体ないという気持ちは、その作物や作業なさる方への敬意に裏付けられているからこそ生じるのではないでしょうか。
お饅頭や大福でも見かけるこの青桃の甘露煮、摘果された実を美味しく頂けたらという先人たちの創意工夫が施された銘品ということを知っているだけで、味わいにほんの少し深みがでそうですね。
<一炉庵>
東京都文京区向丘2-14-9
03-3823-1365
月~金 9時~18時
土日祝 9時~17時
定休日 火曜
東京メトロ南北線「東大前」駅より徒歩5分