「スパイファミリー」や「フリーレン」秋アニメが盛況も… 「オリジナルもの」の受難
「SPY×FAMILY(スパイファミリー)」や「進撃の巨人」など実績のあるシリーズものに加え、金曜ロードショーでも放送された「葬送のフリーレン」など、秋に始まった新アニメの作品数は80本以上と盛況です。しかし、この状況を懸念する声もあります。なぜでしょうか。
◇「原作もの」 秋アニメの8割も
80本もあれば「アニメは豊作で死角なし」という視点もあるでしょう。しかし、秋に放送される新作アニメの8割以上は、マンガや小説、ゲームを原作にした「原作もの」です。逆に「原作もの」でない新作の「オリジナルもの」は、1割もありません。
アニメ化にあたって、最初から知名度がある「原作もの」は、制作サイドの計算が立ちやすく、「アニメファンに認知されないまま失敗」というリスクを回避しやすい利点があります。その代わり大成功しても、アニメ制作会社の“取り分”は減りますし、コンテンツの活用という意味では制約も生まれます。アニメ制作会社の理想を言えば、「ガンダム」や「プリキュア」「エヴァンゲリオン」のように、新規(オリジナル)の企画を立ち上げて、大ヒットさせることにつきます。
しかし「原作もの」でも、アニメ化のオファーが複数ある有望な作品であれば、「プロ野球のドラフト1位指名選手」のようなもの。物事に絶対はないものの、高い確率で戦力になるわけです。「失敗の可能性が少ない」というのは、ビジネス視点では魅力的なのです。
◇秋アニメの「オリジナルもの」 人気ランキングは…
リスクのある「オリジナルもの」ですが、作り手の自由度があり、モチベーションもアップします。それは作品の出来にも反映されるわけで、秋アニメの「オリジナルもの」もしっかりした内容でした。
神様の座を巡って殺し合いをする「カミエラビ」は、ダークな世界観を舞台に各キャラクターの設定も凝っていて、オリジナルらしい先の読めない展開が楽しめます。原案は「ニーア」シリーズのゲームクリエーター・ヨコオタロウさん、キャラクターデザインは「ソウルイーター」のマンガ家・大久保篤さん、脚本は「カゲロウプロジェクト」のじんさんという布陣で、ダークファンタジー好きであれば一見の価値ありです。
「オーバーテイク!」は、モータースポーツの「F4」を題材にした、アニメ会社「TROYCA(トロイカ)」の10周年記念作品です。不調のフォトグラファーが、高校生レーサーのひたむきさに心を動かされるという内容で、スピード感あふれるレースシーンだけでなく、モータースポーツの苦労、人間ドラマが描かれています。モータースポーツが人気の欧州で受けそうな感じもします。
ほかにもeスポーツを題材にした青春物語「僕らの雨いろプロトコル」などもありますし、昨年にネットフリックスで配信され、今回NHKで放送される「地球外少年少女」もあります。「電脳コイル」の磯光雄さんの作品と言われると、未見の人であれば気になるのではないでしょうか。ネットフリックスを視聴している人には今さら感もありますが……。
しかし、秋アニメの人気ランキングでは、「原作もの」がほぼ上位を占めています。集英社を筆頭に大手出版社のマンガが強い……という構図はそのままです。
昨夏に話題となった「リコリス・リコイル」のような「オリジナルもの」のヒット作はあるものの、総じて近年は「オリジナルもの」に厳しい流れになっています。そう言えば、オリジナルの典型といえるロボットアニメの新作は、最近すっかり目にしなくなりました。「オリジナルもの」が受けなければ、企画は通らないでしょう。「このままだとオリジナルは確実に作りづらくなる。長い目で見ると、業界とファンの双方にとって良いことはひとつもない」などと憂う関係者たちの声があるわけです。
◇ビジネス重視にタイパ オリジナル受難の時代
もちろん、マンガを筆頭に「原作もの」のアニメ化はもともと定番でしたが、ここまで偏重したのはなぜでしょうか。三つの理由が考えられます。
一つ目は、アニメの評価が高まり、ビジネスの期待が大きくなったことです。その典型がテレビ局で、以前にも増してアニメビジネスに注力していることでしょう。若い世代のテレビ離れが指摘され、視聴率の低下と広告収入減に悩むテレビ局が、海外配信を含めて活路を求めています。日本テレビのスタジオジブリ買収、フジテレビと中国・bilibili(ビリビリ)の提携なども、その流れでとらえると分かりやすいでしょう。
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そのターニングポイントは、アニメ「鬼滅の刃」の大ヒットです。映画の興収が400億円を突破し、テレビアニメの視聴率が人気ドラマの視聴率を超える……となれば、テレビ局の目の色が変わってくるわけで、要するに「次の『鬼滅の刃』を発掘しろ」となっているのですね。
そして投資をすれば、結果も求められます。成功を求めるならば、ヒットした原作もの、計算できる作品などがターゲットになります。投資をする側の論理でいえば、計算の立ちにくい「オリジナルもの」は、手が伸びづらくなるのです。
そして「原作もの」は、「タイパ」「コスパ」など、効率を重視する消費者の価値観にも沿っています。SNSで「バズる」ことを求めると、誰もが知る作品が歓迎されますし、その結果として特定の作品に話題が集中します。昔であれば、自らコストをかけて、お気に入りの無名の作品を見つけ出し、それを“布教”するファンがいましたが、今のSNSでそのやり方は手間がかかります。人気作品に言及して盛り上がるほうが手軽に共感もされますし「バズる」からです。
そもそも「オリジナルもの」は「先の展開が読めない」というのが売りですが、今は「先の展開が何となく分かる安心感」を求めるような流れすらあります。小説投稿サイト「なろう」の人気作は、主人公が大活躍をして、ライバルを爽快に叩きのめす内容ですし、タイトルだけで中身(方向性)が分かるようになっています。現在の消費者の心理をよく表しているのではないでしょうか。
◇「ゼロ話切り」の意味
「時代の流れ」といえばそうなのでしょうが、「オリジナルもの」の減少は、アニメ全体の可能性や幅を狭める一面があります。アニメオリジナルの企画力が低下するのもそうですし、アニメの“元ネタ”を、マンガやゲームに握られすぎては、極論すると「人気作だけアニメ化すればよい」となりかねないからです。アニメのオリジナルは、数字で単純に推しはかれるものではありません。そんなことでうまくいくなら、エンタメのヒット作はもっと定量的に作れるはずです。
今、アニメでは、序盤や第1話すらも見ずに、公開前だけのPVなどを見て視聴の可否を決める「ゼロ話切り」という言葉があるほどです。しかし、アニメ制作が軌道に乗ってくる後半になると、作品の出来が劇的に良くなることも珍しくありません。しかし今の流れでは最初から話題にならない作品は、日の目を見ないことになります。今や巨大コンテンツに成長した「ガンダム」シリーズも、最初は苦戦したのは有名な話です。
そして「ゼロ話切り」というワードが出るのは、ファンが見きれないほど作品があることを指していて、プロモーション用のPVが皮肉にもファンの判断材料となっており、そして本編のアニメが軽んじられているという意味にもなります。同時にアニメのキュレーションが働いてないし、アニメファンが作品の数の多さに混乱している……とも言えるわけで、なかなか根深い問題なのです。
アニメビジネスにおける、計算の立ちやすい「原作もの」を重視する姿勢は、今後も継続するでしょう。しかしアニメファンの趣向は、制作側のビジネス戦略に確実に影響します。「原作もの」へ偏っていることがある意味、アニメファンの選んだ道であるなら、その流れに歯止めをかけるのも、またファンの力ではないでしょうか。他の産業も、多様性に欠けて一辺倒になり、新規性を失うと市場の成長が止まるというのは、よくある話です。
そして厳しい時代ではありますが、「オリジナルもの」は、現在の逆境を跳ね返し、奮闘してほしいと願っています。そしてアニメファンは、「オリジナルもの」を見て、良ければ褒めて、悪ければ批判してほしいところです。まずいのは、褒められもせず、批判もされず、話題にならない「無風」状態なのですから。