Yahoo!ニュース

家族かばい撃たれる直前の最後の言葉が報じられる。遺族のその後の対応に浮かび上がる国の分断

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
銃撃事件で死傷者が出た、トランプ氏の選挙集会の会場(15日)。(写真:ロイター/アフロ)

13日にトランプ氏が銃撃されたペンシルベニア州の選挙集会の会場で、流れ弾に当たり死亡したコリー・コンペラトーレ(Corey Comperatore)さん(50)。家族を守りながら凶弾に倒れたコンペラトーレさんについて、米メディアでさまざまな報道がなされている。そして遺族の事件後の対応から、アメリカの政治的分断が再び浮き彫りとなった。

20代になる2人の娘の父親でもあるコンペラトーレさんは家族思いで、夫妻は結婚29周年を間近に控えたおしどり夫婦でもあったようだ。FOXニュースニューヨークポストなどの各メディア、そしてXでも、コンペラトーレさんが撃たれる直前に「GET DOWN(伏せろ)!」と叫び、妻らに覆い被さり凶弾に倒れた当時の生々しい様子が伝えられ、話題になっている。

アメリカでは政治的なイベントに家族で参加するのはよくあることで、筆者が取材をしている共和党大会(今月15日から18日までミルウォーキーで開催中)でも、他州から家族連れで参加している有権者に何人も会った。支持する政党を持つ彼らにとって、政治的なイベントは重要な家族イベントでもある(取材内容は後日掲載する)。

コンペラトーレさんも事件当日、妻のヘレンさんら家族と共に、会場を訪れていた。当日は支持するトランプ氏の選挙集会ということで、楽しみにしていたという。

自分が関心を示し情熱を注ぐ大統領候補者のイベントの場でまさか凶弾に倒れるとは誰が予想しただろうか。銃社会、アメリカの危うさが改めて浮き彫りとなった事件だと思った。

また要人警護については今一度、見直しが必要であろう。筆者はアメリカの要人の取材現場に何度も行ったことがあり、いかに要人と周囲、イベント自体がシークレットサービスという「最高レベル」のプロ集団に護衛されているか、自分の目で何度も確認している。よってこのような暗殺未遂事件、そして一般人を巻き込んだ銃撃死傷事件が起こったことがまったく信じられなかった。

実際にトランプ氏の選挙集会に行ったことがある人(匿名希望)に話を聞いても「まったく信じられない。集会会場はもちろんその周辺もゲートを立てたり交通規制を敷いたりして『周辺エリア』も警戒されているものだから」というような答えしか返ってこない。

コンペラトーレさんはエンジニアで元バッファロー・タウンシップ消防署長。今でも仕事の合間に州内の消防活動に参加していた。銃撃の翌日、在籍していた消防署では半旗が掲げられ、彼の制服と花が手向けられた。
コンペラトーレさんはエンジニアで元バッファロー・タウンシップ消防署長。今でも仕事の合間に州内の消防活動に参加していた。銃撃の翌日、在籍していた消防署では半旗が掲げられ、彼の制服と花が手向けられた。写真:ロイター/アフロ

アメリカの「危うさ」という点ではもう一点。

遺族にとって、民主党の現役大統領であるバイデン氏に対する思いは複雑なようだ。前述のニュースソースをはじめとする全米の各メディアでは、事件後ヘレンさんの元にバイデン大統領が電話で直接哀悼の意を表す意向があったことが伝えられているが、ヘレンさんは夫が熱心な共和党員だったため、それを拒否したという。

アメリカの敵対・分断する二大政党の支持者たち。この現実がこの一家の対応にもはっきりと浮かび上がっている。

  • 修正版:オリジナル原稿より一部加筆・修正をしました。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事