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4年前、カンプ・ノウで一体何が起きたのか? パリSGが今もトラウマとして抱える奇跡の大逆転劇。

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 現地時間3月10日(日本時間11日未明)に行われるチャンピオンズリーグのラウンド16、パリ・サンジェルマン対バルセロナの第2戦。2月16日に行われた第1戦では、アウェイのパリが1-4で大勝しているだけに、バルサは窮地に立たされた状態で臨むことになる。

 バルサにとっての希望は、4年前に起こした“カンプ・ノウの奇跡”だ。あの時、パリの本拠地パルク・デ・プランスで行われた第1戦で、パリが4-0で完勝。第2戦を迎えるバルサにとっては、5-0以上の勝利という、ほぼ“ミッションインポッシブル”な目標に向かってパリをカンプ・ノウに迎えた。

 しかし、もはや不可能と思われた大逆転劇は、現実に起こった――。

 あの夜、カンプ・ノウで一体何が起きたのか? サッカー史に刻まれる史上最大の逆転劇を、改めて振り返る。

超攻撃的布陣で臨んだバルサ

 第1戦でパリに大敗した後、そのシーズン限りでの退任を発表していたバルサのルイス・エンリケ監督は、奇跡を起こすべく、基本布陣の4-3-3ではなく、賭けとも言える超攻撃的3バックシステムを採用した。

 GKテア・シュテーゲン、3バックは右からマスチェラーノ、ピケ、ウンティティ。アンカーにブスケツ、右インサイドハーフにラキティッチ、左にキャプテンのイニエスタ、そして右ウイングバックにラフィーニャ、左にはネイマールを配置。そして2トップは、メッシとスアレスというスタメン11人。

 アンカーのブスケツも攻撃的な要素を兼ねると見た場合、実にフィールドプレーヤー10人のうち7人が攻撃的な駒ということになる。

 対するパリのスタメンは、第1戦で活躍したディ・マリアが負傷明けでベンチスタート。代わりにルーカス・モウラがスタメン入りを果たし、第1戦で欠場していたキャプテンのチアゴ・シウバが復帰。第1戦に続きティアゴ・モッタが負傷欠場し、第2戦も引き続きラビオが代役を務めた。システムは、基本の4-3-3。

 GKトラップ、DFは右からムニエ、マルキーニョス、チアゴ・シウバ、クルザワの4人。中盤はラビオがアンカーで、右にヴェラッティ、左にマテュイディ。前線は、右にルーカス・モウラ、左にドラクスラー、1トップにカバーニという面々だ。

開始3分にバルサが先制

 満員に膨れ上がったカンプ・ノウ。その大部分を占めるバルサ・サポーターの大声援の中、ドイツ人デニス・アイテキン主審がキックオフの笛を鳴らすと、バルサが怒涛の攻撃を仕掛ける。

 開始3分、バルサは右サイドからラフィーニャがクロスを供給。これをゴール前でマルキーニョスがヘッドでクリアを試みるが、ボールは強い回転がかかった状態で頭上高くに上がると、落下したボールは予想外の方向にバウンド。これに素早く反応したスアレスが頭でシュートを放つと、カバーに入ったムニエが必死にクリア。

 しかし、その時すでにボールはゴールラインを割っており、バルサが予想以上に早い時間帯で先制する。

 何かが起こりそうな雰囲気がスタジアムに充満する中、引き続きバルサの猛攻が続く。ゲームはほぼパリ陣内で進められたが、まだ余裕のあるパリは、自陣に引きこもってバルサの攻撃をしのぐ戦い方を続けた。パリのウナイ・エメリ監督にも、まだ焦りはなかった。

 そんなバルサの猛攻に対し、パリは1トップのカバーニまでもが自陣で守備をする一方的な展開が続くと、前半40分に再び試合が動く。

 ネイマールのくさびをスアレスが受け、DFの裏に浮き球のパスを配給。ボックス内左に走り込んだイニエスタがゴールラインのギリギリのところで見事なヒールパスを見せると、カバーに入ったクルザワがクリア。しかし予想外のタイミングで来たボールに対して正確性を欠き、ボールはパリゴールに転がり、これがオウンゴールに。

 前半を終えて、バルサが2-0でリード。後半に2ゴールを決めれば延長戦、3ゴールを決めれば逆転勝利。目標が現実的になったバルサは、ますます士気を高めてハーフタイムを迎えた。

 前半のボール支配率は、バルサが64%、パリが36%。シュートはバルサが7本(枠内2本)、パリが2本(枠内1本)。パス数はバルサが244本(成功率83%)、パリはわずか96本(成功率67%)。このスタッツだけを見ても、いかに一方的な展開だったのかがわかる。

パリがアウェイゴールをマーク

 後半キックオフ直後こそ、パリに攻撃の姿勢が見られたが、ワンプレーが終わると再び前半と同じように、バルサがパリ陣内で攻撃を続ける展開に。

 すると、後半立ち上がり早々の48分。バルサはネイマールが左サイドで突破を図ると、反転したムニエが足を滑らせ、そのまま自陣ボックス内に倒れ込む。そこにボールを追うネイマールが走り込んで、ムニエの体と接触して転んでしまうが、主審はノーホイッスル。ところが、追加副審の進言により、主審は判定を変更してPKを宣告した。

 パリ側は主審に抗議するも、判定は変わらず、このPKをメッシが決めて3-0。この時点で精神的に優位に立ったのは、完全に追う側のバルサになった。

 しかし、1点差に迫られたパリは作戦を切り替え、ここから反撃に転じる。52分にはムニエのクロスをカバーニが合わせるも、これはゴール右ポストを直撃。その3分後には、エメリ監督がルーカス・モウラに代えて負傷明けのディ・マリアを投入するなど、守るよりも攻める方を選択した。

 そんな中、ゲームの行方を左右するパリ待望のアウェイゴールが生まれる。62分、敵陣中央で得たフリーキックをヴェラッティが左サイドに攻め上がったクルザワへフィード。するとクルザワはヘッドでゴール前に折り返すと、ボックス内でカバーニがダイレクトでシュート。これがネットに突き刺さり、スコアは3-1に。

 これにより延長戦の可能性は消滅。バルサが逆転勝利を収めるためには、あと3ゴールが必要になった。貴重なアウェイゴールを決めたパリにとっては、勝利を確信した1点となった。

 パリのアウェイゴールで静まり返ったカンプ・ノウ。その空気を感じ取ったかのように、バルサの攻撃も勢いを失い始める。そこでエメリ監督は、時間の経過とともに再び守り切りにシフトチェンジ。75分にドラクスラーに代えて、右サイドバックにオーリエを投入。ムニエを一列上げて、守備的な陣容にしてバルサの反撃に備えた。

 76分、ルイス・エンリケ監督は、ラフィーニャに代えてセルジ・ロベルトを、ラキティッチに代えてアンドレ・ゴメスを投入。すでに65分にイニエスタに代えてアルダ・トゥランを送り込んでいたため、これで交代カードすべてを使い果たした。

 その後、バルサも必死にゴールを目指すも、再びパリが自陣ボックス付近にブロックを作って対抗。時間はそのまま経過し、もはやパリ勝利が濃厚と見られた。

 ところが誰も予想しなかったドラマが、試合終了間際に待っていた。

試合終了間際にまさかの展開

 88分、相手ボックス付近左で得たフリーキックをネイマールが直接狙うと、壁を越えたボールがネットに突き刺さる。これで、4-1。意気消沈気味だったスタジアムに、再び活気が戻った。ただ、それでもまだ奇跡を信じる者は少なかったはず。

 するとその2分後、今度はメッシがゴール前にフィードを送ると、マルキーニョスの背後を狙ったスアレスが倒れて、主審はPKの判定。マルキーニョスとしては、スアレスに接触しないように両手を挙げて対応したが、そこはスアレスの方が上手。体を上手く入れてファールを誘った。

 このPKをネイマールが決め、スコアは5-1に。勝利まであと1点に迫ると、いよいよスタジアムは異様な空気に包まれる。

 ここでエメリ監督はムニエを下げて、クリホビアクを投入。空中戦対策も含めた逃げ切り作戦だ。アディショナルタイムは、5分。決して逃げ切り不可能な時間ではなかった。しかし……。

 94分、バルサはパリ陣内でフリーキックのチャンス。あと残り40秒という時間だ。キッカーのネイマールは、攻め上がったGKテア・シュテーゲンをめがけてフィードを入れるも、これはラビオがヘッドでクリア。しかしセカンドボールを拾ったネイマールは、切り返した後にDFラインとGKの間に絶妙なボールを供給する。

 オフサイドラインのギリギリのところで反応したセルジ・ロベルトが体を投げ出しながら右足で合わせると、これがネットを揺らし、ついにスコアは6-1。その瞬間、カンプ・ノウは歓喜の渦と化した。

 パリボールのキックオフで再開した試合は、その直後にアイテキン主審が試合終了を告げるホイッスル。ついに、世に語り継がれる“カンプ・ノウの奇跡”が完結した。

 振り返れば、この試合でバルサが決めた6ゴールの内訳は、PKが2点、直接FKが1点、オウンゴールが1点。最後の6ゴール目もセットプレーの延長上で生まれた1点と見れば、結局、流れの中で自ら決めたゴールは開始3分に偶発的に生まれたスアレスのゴールのみだった。

果たして、奇跡は2度起きるか?

 4年前の4-0と比べれば、確かに4-1の今回は、バルサにとっては希望を持てる数字ではある。しかし4年前と違い、アウェイで4ゴールを決めて先勝しているパリにとっては、第2戦をホームで迎えることも含め、大きなアドバンテージがある。

 バルサのクーマン監督は、ピケとアラウーホを欠く中、最近重用している3バックで4年前の再現を狙うのか? いずれにしても、現在のバルサは“カンプ・ノウの奇跡”を起こしたチームよりも総合力が低下しており、フィールドに7人の攻撃的駒を配置するだけの有効な戦力もいない。そういう意味では、“パルク・デ・プランスの奇跡”は、4年目よりも確実にハードルが上がったといっていい。

 逆に、優位な立場にあるパリも、キックオフが近づけば精神的余裕はなくなってくることは間違いないだろう。特にヴェラッティ、マルキーニョス、クルザワ、ドラクスラー、そして負傷から戦列復帰を果たしたばかりのディ・マリアは、クラブとして4年前に経験したトラウマを乗り越えられるかどうかのキーマンになる。それは、ベンチであの光景を見たキンペンベもしかり、である。

 戦列復帰が期待された4年前の主役ネイマールは、第2戦も欠場する。現在のパリのムードメーカーで、勝利を呼ぶ重要戦力を欠くパリにとっては、やはりエムバペが勝敗のカギを握ることになるだろう。

 勝敗のポイントは4年前と同じ、前後半の立ち上がりと最後の時間帯。そして、イングランド人アンソニー・テイラー主審のジャッジも、勝負の行方を左右する。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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