ガザだけではない、ヨルダン川西岸で続く殺人 イスラエル狙撃兵がパレスチナ市民を狙うジェニンを訪ねた
米ウォールストリート・ジャーナルは14日、イスラエルとイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザの停戦案に大筋で合意したと伝えた。そうした中、米ニュースサイト、アクシオスは15日、イスラエル当局者が16日にも合意が発表される可能性があると述べたと伝えた。
ハマスは2023年10月7日に南部イスラエルを攻撃。約1200人の市民を殺害し、251人を人質としてガザに連れ去った。親子が引き裂かれる映像などが世界に発信された。イスラエルはこれを受け、ハマスを壊滅させるとしてガザで軍事攻撃を開始した。
空爆や地上侵攻によりハマス戦闘員以外のガザ市民も犠牲になり、ガザの保健省によると、これまでに4万6500人以上のパレスチナ人が殺された。被害者の多くは女性や子どもたちで、病院や学校なども攻撃の対象となり、国際社会からの非難の声も上がっていた。
イスラエル、パレスチナ市民の訴えは、8bitNewsでも特設サイト「抑圧の地を市民と伝えるパレスチナとイスラエルpresented by 8bitNews 」を設け、当事者の声を伝えてきた。
ガザでの停戦が実現されれば、人道危機の解消に向けた大きな前進となる。
しかし、長年にわたる、イスラエルによるパレスチナ自治区への過剰な入植行為はガザだけの問題ではなく、エルサレムをはじめ、ヨルダン川西岸地区での暴力的な抑圧と占領の問題は根本的に解決されないままだ。
そうした中、私は昨年夏から年末にかけ度々現地を訪問し、イスラエルが主張する「テロリストの排除」とは異なる、市民の犠牲を伝えてきた。
昨年末、再び、ジェニンを訪ねた。
街のあちらこちらで建物が破壊され、イスラエル軍の攻撃の爪痕が残る。アスファルトの舗装は根こそぎ剥がされ、雨が降りぬかるんだ凸凹の道が負傷した市民を運ぶ救急車両の走行を妨げてもいた。
ジェニン難民キャンプは、イスラエルに対抗するパレスチナ武装勢力の拠点にもなっているとして、イスラエル軍の攻撃の対象になってきたが、実際に殺害された人々の遺族を取材すると、武器も持たない武装勢力とは無関係な市民が狙い撃ちされていることもわかった。
今回の取材では、昨年11月末に、イスラエル軍の狙撃兵、スナイパーによって殺害された19歳の青年、ナセルさんの遺族を訪ねた。日本をはじめとした、国際社会に対する切実な訴えの声も聞いた。
多くの日本人に届けて欲しい、そんなメッセージをみなさんにも共有したい。
動画でぜひご覧いただきたい。
息子が亡くなったとき、最初は犬のように倒れているという情報が入りましたが、私たちは何とかしてそのショックを和らげようとしました。それでも、その知らせを聞いてから約1時間半待ち続けました。
そして最終的に、彼の友人が来て、こう告げました。
「ナセルは亡くなった」と。
息子のナセルは、わずか19歳と41日の若さでこの世を去りました。 ナセルは生涯、一度も誰にも迷惑をかけたことはありません。
通りを歩いていても、近所でも、カフェでも、大学でも、学校でも、誰一人として彼のことを悪く言う人はいませんでした。それどころか、彼は常に笑顔で、人々に優しく接する青年でした。ナセルを知る人で、彼を嫌う人などいませんでした。
私たちは彼の葬儀をアメリカン大学で行い、そこで弔問客を迎えました。その際、大学の学生たちが7、8百人も来てくれました。彼は勉強に集中し、働き、自分の生活を築こうとしていた青年でした。 彼は武器を持つこともなく、暴力に関わることもありませんでした。
ナセルは礼儀正しく、思いやりがあり、誰に対しても丁寧でした。人々はみな、彼の性格を高く評価していました。彼は賢く、責任感もあり、何事にも慎重に対応する子でした。誰かと話すときも、友人のように接し、温かさと近さを感じさせる青年でした。
しかし、彼は無実のまま殺されたのです。
学校の南側にある場所に狙撃兵がいたのですが、私たちはそのことを全く知りませんでした。もちろん、私たちの地域には狙撃兵がいることは知っていましたが、学校の近くに配置されているなんて誰も思いませんでした。
ナセルは罪もなく撃たれたのです。
彼は何もしていませんでした。ただ友人と一緒にいただけです。 ナセルは脅威を与えるような人物ではありませんでした。彼は武器も持たず、誰かを挑発するようなこともしませんでした。 それにも関わらず、彼は冷血に殺されたのです。
私は尋ねます——なぜ? 彼のような無害な青年を、なぜ殺さなければならなかったのでしょうか? 私たちパレスチナ人は、誰も血を流すことが好きなわけではありません。
しかし、イスラエル占領の圧力によって、私たちの土地が奪われ、生活が制限され、耐え難い状況に追い込まれています。
西岸地区の90%の土地は奪われました。
私たちは検問所で侮辱され、刑務所内でも虐待を受け、日々耐え続けています。 若者たちは、日常的に仲間が撃たれて亡くなるのを目の当たりにしています。
その光景を見て育った子どもたちが、どう感じ、何を学ぶと思いますか? 彼らには感情がないとでも思っているのでしょうか?
私たちパレスチナ人は、世界で唯一、占領下に置かれ続けている民族です。
他の民族と同じように、私たちにも自由、独立、安全、経済的・社会的安定を享受する権利があります。しかし、なぜそれが許されないのでしょうか? なぜ、世界中が目を閉じて、イスラエルを支持し続けるのでしょうか?
アメリカ、ヨーロッパ、日本、ドイツ、イタリア——どの国も、正しいか間違っているかを考えずに、ただイスラエルを支援しています。
私たちの命はそんなに軽いのですか?
私たちはそんなに価値のない存在なのですか?
私たちパレスチナ人には、何万人もの囚人がいます。しかし、彼らについて世界は何も語りません。
一方で、50人のイスラエル人が捕虜になれば、世界中が大騒ぎをします。
これが私たちのメッセージです。
私たちはただ、自由と独立、そして平和を求めているのです。私たちが70年間支払ってきた代償は、あまりにも大きすぎます。 私たちも、他の国々のように自由に暮らしたい。それだけです。 世界は、私たちの人間性を認めるべきです。
私たちは人間なのです。
他の人々と同じように、生きる権利があるのです。
私たちは人間です。私たちは生身の人間であり、感情を持ち、繊細な心を持っています。この瞬間もです。
世界の政府、ヨーロッパ諸国の政府、日本政府、韓国政府、アメリカ、オーストラリア、カナダ——彼らは私たちの存在を認めず、気にも留めていません。 私たちはただ、平和、安定、自由を求めている普通の人間です。世界中の他の人々と同じように、それを望んでいるだけなのです。
これが私たちのメッセージです。それだけです。
日本の皆さん、そして日本政府へ、
どうか私たちの声を聞いてください。
私は日本政府と日本の皆さんに言いたいのです。
パレスチナで何が起きているのか、その現実を正しく知ってください。入植地を見てください。攻撃を見てください。私たちの人々、私たちの子どもたちに対する抑圧を見てください。そうすれば、真実が見えてくるはずです。
あなたたちは平和と安定の中で生活しています。私たちも、あなたたちと同じように生きる権利があるのです。
なぜなら、私たちもあなたたちと同じ人間だからです。
これが私たちのメッセージです。