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米国はシリア情勢をめぐって自らをテロ支援国家に指定?!

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

米中央情報局(CIA)は24日、公式サイト (https://www.cia.gov/)内の「ワールド・ファクトブック」(The World Factbook) を更新し、シリアで活動するクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)と前共同党首のサーリフ・ムスリム氏を「テロリスト」に指定した。

シリアの「テロリズム」(Terrorism)欄 に、アル=カーイダ、ヒズブッラーなどとともに「外国に拠点を置くテロ集団」(Terrorist groups- foreign based)として列記された「クルディスタン労働者党(PKK)」の項目は、次のような内容に変更されたのだ。

クルディスタン労働者党(PKK)(Kongra-Gel):

目的:シリア北部の領域を含むクルディスタンの建設。

活動地域:主にロジャヴァ、シリア・クルディスタンとして知られるクルド人居住地域などの北部で活動し、ISIL(イスラーム国)と戦う。サーリフ・ムスリム・ムハンマドはクルディスタン労働者党のシリアの分派の指導者。シリア国内の戦闘員の大多数は、シリアのクルド人で、なかにはイラン、トルコ、イラク出身のクルド人もいる。

(原文)

Kurdistan Workers Party (PKK) (Kongra-Gel):

aim(s): establish Kurdistan, which comprises territory in northern Syria

area(s) of operation: operational in the north combating ISIL, primarily in the Kurdish-populated region known as Rojava and Syrian Kurdistan; Salih MUSLIM Muhammad leads Kurdistan Workers Party’s Syrian wing, the Syrian Kurdish Democratic Union Party (PYD); majority of fighters inside Syria are Syrian Kurds, along with Kurds from Iran, Turkey, and Iraq

出典:CIA公式サイト

PYDの台頭

PYDは、2003年9月にトルコで活動するPKKの元メンバーの主導のもとに結成されたシリア最大のクルド民族主義組織だ。アブドゥッラ・オジャラン氏を指導者とするPKKの「姉妹政党」と目される彼らは、「アラブの春」波及に伴う混乱のなかで、クルド人が多く住むユーフラテス川左岸地域(いわゆるジャズィーラ地方)やアレッポ県アフリーン市一帯で勢力を拡大、バッシャール・アサド政権に代わって同地を実効支配するようになった。

PYDはまた、2014年1月には西クルディスタン移行期民政局(通称ロジャヴァ、クルド語で「西」の意味)を発足し、支配地域での暫定自治を開始した。さらに2016年3月には、ロジャヴァ北シリア民主連邦(その後北シリア民主連邦に改称)の樹立が宣言され、ロジャヴァ支配地域の自治体制の維持・強化がめざされた。

こうした動きと並行して、PYDは2011年7月、アサド政権の弾圧から住民を守るとして、人民防衛隊(YPG)と呼ばれる武装部隊を発足させた。だが、YPGが動員されたのは、アサド政権打倒に向けた武装闘争ではなく、シャームの民のヌスラ戦線(現在の呼称はシャーム解放委員会)などのアル=カーイダ系組織が中核をなす反体制派やイスラーム国に対する「テロとの戦い」だった。

この「テロとの戦い」において、YPGが共闘したのが、有志連合を主導する米国だった。2015年10月に米国の肝煎りで結成されたシリア民主軍(SDF)は、YPGを主体とした。有志連合の航空支援や技術支援を受けたこの武装部隊は、ロジャヴァの支配地域をラッカ県、アレッポ県西部(マンビジュ市一帯)、ダイル・ザウル県南東部にまで拡大することに寄与し、2017年10月にはイスラーム国の首都と位置づけられてきたラッカ市を陥落させた。

協力者かテロ組織か

米国にとって、PYDはイスラーム国との戦いを推し進めるうえで不可欠な協力部隊(partner forces)だった。だが、PKKに起源を持つ彼らへの支援は、「テロとの戦い」という文脈において矛盾をきたしていた。なぜなら、米国務省は、1997年にPKKを「外国テロ組織」(FTO)に指定しており、今日もなおPKKと密接に連携しているPYDへの支援は、事実上のテロ支援との批判を免れないからだ。

米国は、シリアで活動するPYDは、トルコで活動するPKKとは異なり、テロ組織ではない、との主張を繰り返した。しかし、PKKを国家安全保障上の最大の脅威とみなすトルコには、この二重基準は黙認できなかった。トルコにとって、PYD、ロジャヴァ、YPG、シリア民主軍は、PKKそのもので、呼称の違いをもって別組織だとする米国の主張は受け容れられなかった。

トルコは、イスラーム国のシリアでの勢力回復を阻止するとして、その後もシリア民主軍への支援を続ける米国への不満を募らせた。米国がシリア民主軍を主体とする国境治安部隊(Border Security Forces)を新設し、ロジャヴァ支配地域を囲い込むかたちで、トルコ国境、イラク国境、そしてユーフラテス川河畔地域に展開させるとの方針を明らかにすると、トルコは猛反発した。1月16日、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は「ドナルド・トランプ米政権と断交した」と怒りを露わにした。

2017年1月末のシリア国内の勢力図(筆者作成)
2017年1月末のシリア国内の勢力図(筆者作成)

トルコによる「オリーブの枝」作戦がもたらしたテロ組織指定

ロジャヴァの支配地域であるアフリーン市一帯に対するトルコ軍と反体制派の「オリーブの枝」作戦は、こうしたなかで開始された。

シリア領内の「テロリスト」、すなわちPYDの根絶を目的とするこの軍事作戦は、米国に対する明らかな挑戦だった。だが、トランプ政権発足以降、シリア内戦への政治的関与を弱めていた米国は、強気の姿勢に出るトルコに同調した。

米国は、ロジャヴァの「本土」とでも言うべきユーフラテス川左岸地域やマンビジュ市一帯への侵攻さえも示唆するトルコに自制を求める一方で、「飛び地」であるアフリーン市一帯への侵攻については、「アフリーンに特別な関心はない」(米軍中央司令部(CENTCOM)のジョゼフ・ヴォーテル司令官)として黙認した(詳しくは拙稿「トルコがシリアへ侵攻し、クルドが切り捨てられる」(Newsweek日本版、2018年1月24日)を参照)。CIAによるPYDのテロ組織指定は、こうした譲歩の一環をなしていた。

とはいえ、この措置は実にアンヴィバレントだ。PYDの現共同党首がムスリム氏ではなく、シャーフーズ・ハサン氏、アーイシャ・ハッスー女史(いずれも2017年9月選出)で、CIAの公式サイトにおける追記情報が正確さを欠いていることもさることながら、この動きは、イスラーム国との戦いを終えた米国によるPYDの切り捨てに向けた布石と捉えることもできるし、トルコに「飛び地」を割譲することで、米軍が10もの基地を構えているロジャヴァ「本土」を米国が安堵しようとしているとも解釈できるのだ。

さらには、ジュネーブ会議、アスタナ会議、そして29日にロシアのソチで開幕するシリア国民対話大会といった停戦・和平プロセスへのPYDの参加を執拗に拒否するトルコやサウジアラビアへのリップ・サーヴィスに過ぎないと見てとることもできる。

だがいずれにせよ、PYD(PKK)に対して繰り返されるとテロ組織指定(そしてその解除)が、米国の中東地域政策のヴィジョンと首尾一貫性の欠如を示していることだけは確かだ。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は9・11事件直後、「テロリストを支援する者もテロリストだ」と主張し、アフガニスタンでのターリバーンに対するテロとの戦いやイラク戦争を敢行した。この論理が今日のシリア内戦においても有効だとしたら、米国は、PYDを(再び)テロ組織に指定することで、自らを「テロリストを支援する者」に指定したことになる。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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