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市民の「健康」への気づきへ。「横浜市の医大生ら」による8月8日開催「健康イベント」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
横浜みなとみらい。写真撮影筆者

 横浜市が生活習慣病の予防などを目的として策定している「健康横浜21」は2024年度から第3期に入る。市の施策を周知啓発するための健康イベントが同年8月8日に横浜市役所で開催されるが、このイベントを企画立案したのは横浜市立大学の医学生らだ。その内容や意味について学生代表の方に聞いた。

港町、横浜の健康課題とは

 市町村として日本最大の横浜市には、2001年度から始められた健康横浜21という生活習慣病の予防などを目的とした取り組みがある。第1期(2001年度から2012年度)、第2期(2013年度から2023年度)と続き、2024年度から第3期(2024年度から2035年度)に入る。

 横浜市が発表した第1期の横浜健康21を踏まえたアンケートでは、全体の41%が生活習慣について改善が必要と回答し、朝食・主食・主菜を取るなどの食生活に気遣っている傾向では金沢区が高く西区で低く、喫煙率では南区が高く栄区が低く、飲酒量でも南区や中区が多いというように地域差があった(横浜市、2013年度「健康に関する市民意識調査」より)。

 高齢者を含めた各ライフステージ世代の人口が多く、市域が広大な国際都市、横浜市という特性を踏まえ、第3期の健康横浜21では、健康寿命の延伸を目標とした。そのため、国が定めた健康増進法をベースにした市独自の健康増進計画、お口の中(歯科口腔)の健康(横浜市歯科口腔保健の推進に関する条例)計画、食育の推進(食育基本法)計画といった3つの計画を一体化して進めることになっている(第3期横浜健康21:横浜市サイト)。

 特に、がん、心血管疾患などの予防のための生活習慣の改善、生活習慣を改善するための環境整備、そして健康に関心が低い市民や心身の健康を保てない市民らも置き去りにしない施策が重要だ。

学生が企画立案して進める健康イベント

 ただ、横浜市に限らず、自治体が進める健康増進の施策は、住民にあまり周知されていないという課題がある。健康意識の向上、実際の生活習慣への反映、健康寿命の延伸などは相互に関連するが、第3期の健康横浜21では横浜市立大学の学生らが企画立案し、2024年8月8日に横浜市役所で周知啓発のための健康イベント「Wellness Port YOKOHAMA 〜第3期健康横浜21いざ出航~」を開催する(イベント特設サイト)。

 これは横浜市と横浜市立大学が共催するイベントで、これまで同市と同大はデータ活用や健康課題分析、中高生の作文コンクールなどを行ってきた。第3期の健康横浜21の推進会議では市内の関連団体によるキックオフイベント開催の提案が上がり、そのタイミングで同大医学研究科の公衆衛生学教室(後藤温主任教授)の学生らから公衆衛生関連のイベントを実施したいという発案があったという。

 このイベントを企画立案した大学生らの代表、横浜市立大学医学部医学科4年の菱田真衣花さんに開催までの経緯や苦労、目的などについて話を聞いた。

「Wellness Port YOKOHAMA 〜第3期健康横浜21いざ出航~」の学生代表、菱田さん。写真撮影筆者
「Wellness Port YOKOHAMA 〜第3期健康横浜21いざ出航~」の学生代表、菱田さん。写真撮影筆者

──今回、学生さんが中心になって健康横浜21(第3期)のイベントを立ち上げようと考えた最初の動機はどんなものでしたか。

菱田「横浜市立大学には、医学部の4年次に研究室へ3ヶ月間入って研究するリサーチ・クラークシップ(リサクラ)というプログラムがあります。私は臨床医を志して医学部に進みましたが、リサクラで公衆衛生学教室に入ったことで、目の前の患者さんを救うだけでなく、多角的な視点から大局的に健康を捉え、病気を予防したり健康状態を維持するため、大勢の人や社会の健康に貢献する公衆衛生学に魅力を感じました。その後、学生である自分にも社会の健康に少しでも貢献できる方法がないかと考え、研究室でお世話になっている公衆衛生学教室の後藤温教授に市民向け健康イベントを開催したいとご相談したところ、賛同いただけたことが自信となり、実行に移そうと決意しました。また、私は大学2年次から一般社団法人ZEROGATEという医療分野でのイノベーション人材を育成する学生組織の運営メンバーとして活動しています。この活動の中で、医療で活躍する様々なプレイヤーや同世代のアクティブな学生との関わりがあり、イベント企画の経験があったことも今回の挑戦を後押しする大きな要因となりました」

──学生さんが中心の企画について、横浜市側へ打診した方法、感触、具体化への過程などを教えてください。

菱田「今回の市民向けイベントでは、自らご提案資料を作成して横浜市の健康推進課の方々にプレゼンしました。突然のご提案で驚かれたと思いますが、大変ありがたいことに健康推進課の方々から『今年始動した第3期健康横浜21のキックオフイベントとして開催するのはどうでしょうか』と仰っていただけました。その後、企画をブラッシュアップしていく中で、学生発のイベントとして多くの方に応援していただき、横浜市と横浜市立大学が共催することになりました」

──学生さんとして社会人と一緒に進めていく上でのご苦労などもありましたか。

菱田「今回のイベントでは、横浜市立大学の医学部内外で幅広い学年の学生20人以上とともに企画運営を進めており、第3期健康横浜21の関係機関・団体を始めとする多くの方々にもご協力いただきました。私自身、社会を巻き込むような責任の伴うプロジェクトでこれほど大きな組織をリーダーとして運営した経験がなかったため、意思決定や企画運営に携わる学生のマネジメントの面で難しく感じる場面もありました。開催に至ることができたのは、その都度、後藤教授を始めとする周りの諸先輩方や一緒にプロジェクトを進めてくれている友人に相談に乗っていただいたおかげだと感じており、支えていただいた周りの方々には感謝の思いでいっぱいです」

大切な医療と町作りの融合

──今回のイベントでは、横浜市民や社会へ何を訴えたいとお考えですか。

菱田「今回のイベントを通して、一人でも多くの横浜市民の健康に対する意識を高め、健康寿命の延伸に貢献したいです。来場された方々が、健康に関する疑問を解消したり、正しい知識を学びながら自身の健康状態に気づくきっかけを得たり、健康への関心を高めたりしていただければと思っています。健康は日々の習慣の上に成り立っています。日常生活の中には、心身の不調に気づいたら早期に病院を受診するといったような医療との適切な関わり方も含まれると思います。これから医療に携わる私たちを含めた学生が自分自身の健康と向き合うことの大切さを発信することで、横浜市民の皆さんの健康を少しでも高められたらと思っています。また、個人的には、来場された方々がこのイベントを通して、ご家族やご友人、地域の方々と感じたことを共有していただき、あらゆる地域にメッセージを届けられたらと願っています」

──学生さんが中心のイベントとして、自分たちは何を得られると思いますか。

菱田「学生中心のイベントとして、企画から具体化まで貴重な学びや経験に溢れた期間となりました。企画運営学生それぞれ担当した仕事は異なるものの、一人でも多くの市民に健康の重要性を感じていただきたいという同じゴールの下、試行錯誤してきました。仲間と協力しながらゼロから何かを創り上げる経験や、健康における社会の課題を能動的に学ぶことは、将来医療に関わる学生にとってこれからの原動力となる機会となったと感じています。そして、学生が社会に向けて主体的に取り組んだ例として、国内の同世代の若者が挑戦する際の後押しになれたらと思っています」

──横浜市という自治体に固有の健康問題にはどんなものがあるとお考えですか。

菱田「横浜市は、地域によって住民の年齢構成や社会経済状況が異なること、そして地形が高低差に富んでいることなどが特徴だと思います。坂の多い地域では特に高齢者の医療へのアクセスが難しくなりがちですが、医療と町づくりの視点を融合して地域の交通を充実させるなどすれば健康の向上に繋がるかもしれません。医療機関だけでなく、行政や地域社会、企業などが一体となって共に取り組むことが大切だと思いますし、地域ごとの健康課題について研究を重ねることもとても重要です。地域の方々の健康に関わる様々なデータと健康の関連を明らかにすることで、どういうことがあると健康をそこなうのか、それを防ぐためにはどうすればいいのかといった効果的な施策に繋げられる可能性があります。ビッグデータや解析技術などのテクノロジーの進歩は、これからの人々の健康の改善や健康寿命の延伸などに大きな影響をおよぼしていくと考えています」

 この健康イベントでは、姿勢、骨密度、血管年齢、肌年齢、肺年齢などチェックができるほか、クイズラリーやゲーム、メタバース(ネット上の仮想空間)による心身の健康サポート、野菜摂取チェック、禁煙サポート、乳がんや歯科の啓発パネルなどが出展される。ステージ上ではエクササイズやヘルスリテラシー、女性の健康などについてパネルディスカッションが行われる予定だ。夏休みの課題のヒントになるかもしれないので、お子さん連れで訪れてもいいかもしれない。

Wellness Port YOKOHAMA 〜第3期健康横浜21いざ出航~

日時:2024(令和6)年8月8日(木)11時から16時(雨天開催)

会場:横浜市市庁舎1階アトリウム(神奈川県横浜市中区本町6-50-10)、馬車道駅(みなとみらい線)など

対象者:一般(横浜市民以外も)

料金:無料(事前申し込み不要)

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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