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金正恩氏の「眠気」と軍幹部を虐殺した過去

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

先月27日、北朝鮮の金正恩党委員長は韓国の文在寅大統領と南北首脳会談を持った。当日の夜には韓国側の主催で晩餐会が開催され、金正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏や、李雪主(リ・ソルチュ)夫人が同席。晩餐会の様子は生中継された。

人間を「ミンチ」に

始終なごやかなムードが漂う中での晩餐会では、金正恩氏の気も緩んだのだろうか。韓国側が準備した民族楽器の演奏や小学生たちの独唱の最中には、眠気に包まれたようだ。それ意外の場面でも眠気を必死で押し殺そうとしているのか挙動不審な様子を見せている。

(参考記事:【動画】眠そうな金正恩氏…南北首脳会談晩餐会

金正恩氏が、北朝鮮の最高指導者としては初となる韓国側での首脳会談で、精神的にかなり疲労したことは想像に難くない。

また、会談場所まで歩く際、息切れしたような様子も見せたことから、肥満体型も負担になっているだろう。以前から、金正恩氏の肥満体型については健康不安説が根強く囁かれている。また、パーティー狂いなど不摂生の情報もある。

(参考記事:金正恩氏の秘密パーティーに呼ばれる「名門女学生たち」の涙

ところで、金正恩氏と居眠りという二つのキーワードからは残忍な粛清が思い起こされる。

2015年4月、当時の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長が会議中に「居眠り」し、さらにそれを見咎められて口答えしたために、正恩氏の命令で粛清されたとされている事件だ。玄氏は人間を「ミンチ」にしてしまうような残忍極まりない方法で処刑されたといわれている。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

今回の首脳会談における金正恩氏の振る舞いは、3月末に中国の習近平国家主席と会談をした時に比べると、かなりの余裕が感じられた。習近平氏を前にした金正恩氏は、借りてきた猫のように大人しくしていた。

(参考記事:【動画】習近平氏の前で大人しい金正恩氏

アウェイの中国ではなく韓国という「準ホーム」で会談が行われたことで、晩餐会では気が緩み眠気に包まれたのかもしれないが、やはり若さゆえの未熟さを隠すことはできなかったようだ。

今回の会談には南北のみならず全世界が注目した。晩餐会が生中継されることも南北間で事前に了解している。もちろん金正恩氏も自分の一挙手一投足に世界が注目していることは百も承知だろう。

眠そうな金正恩氏の姿はカメラを通じて全世界に配信された。外交デビューしてわずか2回目で、歴史的な南北首脳会談に臨んだ34歳の若者の未熟な一面を微笑ましく見る向きもあるようだ。

しかし、金正恩氏が過去に居眠りを理由に軍の高官を虐殺した疑惑がもたれていることをわすれてはならない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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