被害の聞き取りを行う「司法面接室」＝神奈川県立こども医療センター（つなっぐ提供）

　虐待や性暴力の被害を受けた子どもをワンストップで支援する仕組みが注目されている。先進地・米国では、多機関が連携して子どもへの聞き取りや診察、心のケアなどを1カ所で行う施設が900カ所以上あるが、日本には2カ所しかない。その一つ、横浜市の認定NPO法人「子ども支援センターつなっぐ」を取材した。　 【写真】子どもの心理的負担を和らげるために寄り添う付添犬 　神奈川県立こども医療センター（横浜市）の中にある「司法面接室」。柔らかな光が差し込む部屋には、2脚の椅子とビデオカメラが置いてある。 　昨春、つなっぐがクラウドファンディングで資金を集め、代表理事を務める田上幸治医師が働く医療センター内に開設した。虐待や性暴力を受けた子どもから被害を聞き取る司法面接では、研修を受けたスタッフができるだけ正確に、誘導のないよう状況を聞き取る。面接の様子は録音録画され、子どもたちが何度もつらい経験を話す心理的負担を減らすことができるほか、刑事裁判の証拠にもなる。 　司法面接の後は、必要に応じて頭から足先までを医師が診る「系統的全身診察」を病院内で受けることも可能だ。その後の司法手続きや被害環境から離れた後の生活についても、つなっぐが長期的に支えていく。トラウマ（心的外傷）の通院治療への同行や安心できる住まい探しなど、きめ細かなサポートを行っているという。 　　　　§　　　§ 　米国で同様の施設は「CAC（Children's　Advocacy　Center）」と呼ばれ、1985年に発足。司法と児童相談所、医療、教育などの関係者が連携し、虐待や性暴力を受けた子どもの支援にワンストップであたっている。 　つなっぐ代表理事の飛田桂弁護士によると、米国では性虐待の疑いなどの通報があると、24～72時間以内に子どもはCACに連れてこられ、司法面接と診察を受けるという。そこで得た情報を元に、警察は捜査、児相は子どもの保護などに動く。「非常にスピーディー。日本では、関係機関の調整に時間を要する間に証拠が散逸したり、証言があいまいになったりして、事件化が難しくなるケースも少なくない」と話す。 　飛田さんらは、施設の普及啓発活動にも取り組む。昨年12月には賛同する医療機関など9団体連名で、国に設置と運営支援を求める要望書を提出した。日本国内では2019年設立のつなっぐのほか、同県伊勢原市の認定NPO法人「チャイルドファーストジャパン」が運営する。「他地域でやりたいという声もあるが、運営資金の確保が大きな壁になっている。寄付金や助成金で賄うには限界があり、税金の投入が必要だ」 　　　　§　　　§ 　このほか、つなっぐでは、子どもが被害について証言する際の心理的負担を和らげるため、子どもに寄り添う「付添犬」の派遣事業も全国で唯一手がけている。付添犬は、米国での運用をモデルとし、現在は14匹が活動中だ。司法面接や事情聴取での同席や裁判への入廷など、関東や東海地方で200件近くの派遣実績がある。 　つなっぐ理事で、帝京科学大アニマルサイエンス学科講師の山本真理子さんは、「司法面接の場に来られなかった子が、ワンちゃんに会えるならと、来るきっかけになったり、犬とふれあううちに気持ちが落ち着いて被害体験を話せるようになったりと、子どもたちの変化を何度も目にしてきた」と話す。 　現在、付添犬は、犬や指示役の「ハンドラー」が所属する日本介助犬協会や日本動物病院協会と調整して活動日程が決まる仕組みだ。つなっぐは今春、ハンドラー養成訓練にスタッフを派遣。今後は、緊急性が高い子どもの支援にすぐに向かえるように、付添犬を事務所に常駐させることを目指していくという。　（新西ましほ）