ANA、サメ肌フィルムでCO2削減 777F実装機就航、25年春に-300ERも
全日本空輸(ANA/NH)と独ルフトハンザ テクニックは9月2日、ルフトハンザが開発したサメ肌の構造を模した「リブレット加工フィルム」を旅客機と貨物専用機に導入すると発表した。単独の航空会社で旅客機と貨物専用機の両方に導入するのは世界初で、2日はフィルムを貼ったボーイング777F貨物機(登録記号JA771F)がアジア・日本で初めて就航した。旅客機は2025年4月をめどに777-300ER(JA796A)へ導入し、国際線で運航を始める見通し。 【写真】ANAの777Fに貼り付けられたルフトハンザのサメ肌フィルム ◆777にサメ肌効果 フィルムの名称は「AeroSHARK(エアロシャーク)」。サメの肌を生体模倣したフィルムで、気流の影響による空気の粘性抵抗を低減することで燃費を改善し、CO2(二酸化炭素)削減につなげる。50マイクロメートル(1000分の50ミリ)の「リブレット(サメ肌)」を気流の方向に合わせて配置することで、サメの皮膚を再現し、飛行中の空気抵抗を約1%減少させ、燃費を改善してCO2排出量を減らす。機体の約7割に貼り付けることで、ルフトハンザの試算では1機あたり燃料消費を年間約250トン抑え、CO2排出量を約800トン削減できるという。 1枚あたりの大きさは、幅約1メートル×高さ約0.5メートル。777Fには約2000枚が使われ、機首や天井、尾部などを除いた胴体の約7割にあたる部分に、海外の整備委託先で約2週間かけて貼り付けられた。 AeroSHARKは、ルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)を中核とするルフトハンザ・グループの整備会社ルフトハンザ テクニックと、化学薬品・塗料メーカーの独BASFが共同開発し、BASFが製造。ルフトハンザ テクニックがAeroSHARKの型式証明を取得しており、商業運航する航空機での安全性が証明されている。 ANA整備センター技術部の松井宏司朗マネジャによると、ANAの保有機材では777Fと777-300ERにAeroSHARKを導入できるといい、当面は2機で効果を検証し、同型機への導入拡大や他機種への展開などを検討していく。 AeroSHARKによる重量増加は約120キログラムで、ルフトハンザでは4-5年程度で貼り替えを想定している。 2日のAeroSHARKを実装した777F(JA771F)の初便は、成田発シカゴ行きNH8402便。777Fの貨物搭載量は最大約100トンで、NH8402便は約95トンと満載に近い状態で出発した。2機目の777-300ER(JA796A)は長距離国際線機材で、2025年4月をめどに運航開始を目指す。 ◆「1%すら難しい中で可能性高い技術」 ANAは、2022年からニコン(7731)が開発した「リブレットフィルム」を787-9(JA871A)などに貼り付け、効果を検証している。整備センター業務推進部の裙本(つまもと)晋之助マネジャは「部分的に小さなフィルムを貼り、リブレットの表面劣化などの検証を進めている」と、今後も継続していくという。一方で、「AeroSHARKはすでに実装できる状態なので、先行して始めた」と、選定理由を語った。 航空業界は2050年のCO2排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)実現に向け、代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の導入を進めているが、需要をまかなえる生産量に達してない。IATA(国際航空運送協会)の調べでは、全世界が今年必要とする年間航空燃料需要の0.53%にとどまっている。 裙本氏は「CO2削減のメインはSAFの導入だが、まだ時間がかかる。リブレットはすぐにCO2排出量を減らすことが期待できる」と説明する。「CO2を直接的に下げる技術は難しく、運航の工夫などでも1%のオーダーに到達するのは難しい。1%すら難しい中で、AeroSHARKは可能性の高い技術」と、機体に実装する意義を語った。 ANAはAeroSHARKの旅客機への導入を世界で5番目に契約。すでにルフトハンザやグループのスイス インターナショナルエアラインズ(SWR/LX)が運航している。貨物機での採用はルフトハンザカーゴ(GEC/LH)、エバー航空(EVA/BR)に続いて3社目だが、機体整備の関係で運航開始はANAがアジア初になったという。
Tadayuki YOSHIKAWA