東北の若いマタギが禁じられた熊狩りに挑む。山を歩く時間が大半を占める挑戦映画『プロミスト・ランド』【杉田雷麟×寛一郎インタビュー】
――セリフが少ない中で、その変化をどう表現していこうと思いましたか? 杉田:「ここで変わったぞ」というふうに見せるようなことはしていなくて。シーンごとの心情や出来事への反応、周りからの影響の連続で、表情やセリフの言い方がどんどん変わっていったと思います。 ――信行は、礼二郎に熊狩りに行こうと言われて最初は断ったのに、結果、ついて行きますよね。そんな彼の行動原理は何だろうと感じたのですが、なぜ、山に行くことにしたんだと思いますか? 杉田:まあ……流されやすいんですよね(笑)。ノブは、今の生活がイヤだけど何も行動を起こさずに、なあなあに、結局(家業の)鶏の世話をやっていて。ただ、ノブの中でも、変わるきっかけがあるならっていう思いは、考えているのもわからないレベルであったと思うんですよ。だから、ついて行けば何かが変わるんじゃないか、何も変わらないかもしれないけど……っていう気持ちがあったんじゃないかな。 山に入って最初の頃も、ついてきてるくせに、礼二郎に「自分勝手だ」とか「周りのことを考えない」とか言いつつ、ノブ自身、変わるための何かを探していて。結局、熊狩りの中で、自分でそれに気付いていくんですよね。
何にも代えられないひとつに突き進む人間は魅力的
――礼二郎は、意志が強いけど繊細さも垣間見えてすごく面白い人物だと感じましたが、寛一郎さんから見た礼二郎の魅力はどこでしたか?
寛一郎:何にも置き換えられない、ひとつのことに突き進めるって、すごくカッコいい人だと思うんですよ。去っていった妻を含めて、それで実害を受けてる人たちにとっては最悪だと思うけど(笑)。でも礼二郎は、罪を犯してでも熊狩りに行く。何が彼をそうさせるんだというぐらいの熱意は、やっぱり人を動かすと思うんです。だから信行も「何かしら見つかるかもしれない」と思って、礼二郎について行ったし。ここまでカッコよく、愚かな人間はやっぱり魅力的だなと思いますね。 ――ご自身が共感できる部分や、近いなと思う部分はありますか? 寛一郎:さっき話に出た行動原理で言うと、礼二郎が熊狩りにそこまで懸ける理由は僕にはわからなくて。明確な理由というより、彼が彼に生まれたから、でしかないんですよね。生まれた時からマタギ文化があり、それが善とされてきた世界で、彼にとって熊狩りを継ぐことは至極、当然なことで。自由があるより、そういう狭い環境のほうが熱中できることもあるし、彼にはそれしかなかったと思うんですよね。 ――監督は、礼二郎に短髪をイメージしていたそうですが、長髪にした理由は? 寛一郎:礼二郎は30代の設定なんですよ。でも僕がオファーをいただいたのが23、4歳の時で。この年齢的重さを質量の面でどうリカバリーできるかなと思った時に、短髪だと幼く見えてしまうと思ったんです。僕が短髪にしちゃうと、短髪小僧ふたりみたいになっちゃうので。 杉田:(笑)。 寛一郎:信行とのコントラストという意味でも長髪がいいんじゃないかと思って、監督に提案しましたね。