「逆回転クランク」って何? バイクのエンジンは何がどっちに回っている?
また、コーナー進入前にスロットルを戻して強くエンジンブレーキが効いた際には、車体の後ろ側を路面に押し付ける方向の力が生じるため、車体の安定性や後輪のグリップ力が高まります。 他にも、逆回転クランクは「ジャイロ効果」を軽減する作用もあります。ジャイロ効果とは、高速で回転する物体が回転軸をその場に維持しようとする力のことで、バイクの場合は前後の車輪とクランクシャフトが相当します。 これは直進時の安定性にとってはメリットですが、曲がるために車体をバンクする時にはハンドリングを重くするデメリットになります。 そのため横置きエンジンで正回転クランクのバイクだと、前後輪とクランクシャフトがすべて同方向に回転するためジャイロ効果が大きくなりますが、逆回転クランクにすれば、前後輪のジャイロ効果をある程度抑制できるので、ハンドリングを軽くすることができます。 というワケで、2輪ロードレースの最高峰であるMotoGPに参戦するマシンは、全車が逆回転クランクを採用していると言われています(非公表のメーカーもアリ)。 ちなみに、ドゥカティの市販モデルのV型4気筒エンジンは、エンジンの構成がワークスGPマシンを踏襲し、逆回転クランクになっています。 また市販車がベースのスーパーバイク選手権に参戦するマシンも、戦闘力を高めるために逆回転クランクを採用するBMWモトラッド「S 1000 RR」などがあります。
とはいえ「正回転クランク」が主流なワケは……
このように、逆回転クランクには数々のメリットがあります……が、現在も多くのバイクが正回転クランクを採用しているのはナゼでしょう? それは正回転クランクを採用するエンジンの、後輪までの駆動の流れを知ると理解できます。
1980年代半ば頃から、多くのバイクのエンジンは効率の良い「3軸構成」になっています。クランクシャフトと同軸に刻んだギアがトランスミッションのギアと噛み合い、変速してからチェーンで後輪を駆動しています。 もし、この構成でクランクを逆回転させたら、後輪が逆回転してバックしてしまいます! そのため逆回転クランクを採用するには、クランクシャフトとトランスミッションの間、概念図では一次減速の薄緑と濃緑のギアの間にもう1軸増やして「4軸構成」にする必要があります。 コレを普通に行なうと、部品点数が増えるので重量やサイズが増し、スポーツ性能を高める上では本末転倒になりかねません。 そうならないためには、高強度で軽量な高級素材を使ったり、緻密な設計や精密な加工で重量やサイズを抑えなければなりません。そうすると当然ながらコストが上昇します。これが逆回転クランクの主たるデメリットでしょう。 確かに逆回転クランクはバイクの運動性において多くのメリットがありますが、その威力を発揮したり実感できるのは、レースやサーキットでの本格的なスポーツ走行シーンになります。 しかし一般ライダーが公道でツーリングを楽しんだり普段使いする上では、正回転クランクで何ら問題を感じることはないでしょう。 いまだ正回転クランクが主流なのは、こういった理由があるからです。