唐突な観測報道は、日銀の意図的なリーク? 物議を醸す「柔軟化」報道
7月20日に発表された6月の消費者物価は、「2%に向けて上昇率を高めていく」とする日銀の公式見解に疑問を投げかけましたが、奇しくもその晩の7月20日から22日にかけては各報道機関(時事通信、ロイター、朝日、日経)から「金融緩和の副作用に配慮する観点から金融政策の見直しを本格的に検討」という趣旨の観測記事が報じられました。 物価が下向きのカーブを描いているにもかかわらず、日銀が出口戦略に着手する可能性があるという内容です(日銀の意図するような報道であったかは知る由もありません)。筆者はこの報道に驚きを禁じ得ず、同時に日銀の情報戦略のまずさを感じました。筆者は報道の真偽を確認していませんが、各社とも情報源は日銀関係筋としていましたから、日銀中枢部が記者向けにレクを設け、意図的にリークしたものとみられます。日銀の本音としては「緩和の長期化を見据えて持続可能な枠組を構築する」というメッセージを送りたかったのかもしれませんが、市場参加者は「日銀が出口に前のめりになっている」という印象を抱いた模様です。週明け23日の本邦金市場は円高・株安で反応しました。以下、7月の金融政策決定会合のポイントを整理します。
報道各社が予想する金融政策決定会合の動きとは?
【時事通信(7/20) 日銀、長期金利目標の柔軟化検討=一定程度の上昇容認-7月末会合で議論】 大規模な金融緩和策で「0%程度」としている<長期金利の誘導目標の柔軟化を検討することが20日分かった。一定程度の金利上昇を容認する。>物価の伸び悩みで日銀が掲げる2%の物価上昇目標の実現が展望できない中、現在の緩和策は一段と長期化する見通し。金融機関の収益悪化や国債取引の低迷など副作用を軽減しつつ、緩和長期化に備えるのが狙いだ。7月末に開催する金融政策決定会合で検討する。ただ日銀内には長期金利目標の引き上げに慎重な声もある。会合では具体策をめぐり突っ込んだ議論となりそうだ。 【ロイター(7/20)日銀が金融緩和の持続性向上策を議論へ、長期金利目標の柔軟化など=関係筋】 日銀は30、31日の金融政策決定会合で、鈍い物価動向を踏まえ、物価2%目標の実現に向けて<金融緩和策の持続可能性を高める方策の検討に入った。>金融緩和政策の長期化が避けられない情勢の中、金融仲介機能や市場機能の低下など副作用の強まりに配慮し、現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和における<長期金利目標やETFなど資産買い入れ手法の柔軟化>などが選択肢になるもようだ。 【朝日新聞(7/21)日銀、金融緩和の悪影響減を検討へ 副作用に懸念強まる】 日本銀行は、2013年春から行っている大規模な金融緩和の悪影響を減らす方策の検討に入る。緩和策は当初、円安・株高で景気を好転させたが賃上げの勢いは鈍く、物価上昇率2%の目標は遠い。むしろ低金利による金融機関の経営悪化や年金の運用難など「副作用」への懸念が強まっており、対応策の検討を始めざるを得なくなった形だ。30~31日の金融政策決定会合で<本格的な議論を始める。今回はすぐに具体的な対応策について結論を出さず、会合後の声明文に、緩和の副作用に配慮した政策を検討することを示す文言を盛り込む可能性がある。> 【日経新聞(7/22)緩和と副作用、日銀板挟み】 2%の物価安定目標は遠く、30~31日の金融政策決定会合では長引く緩和の副作用にどう配慮すべきかを検討する。金融機関の負担を無視できないためだが、金利の調整を視野にいれると円高を招きかねず、金融緩和の本来の目的であるデフレ脱却に逆風になる。終わりがみえない緩和は不安が尽きない。(中略)副作用への軽減策の一つは、<長期金利の誘導目標を将来、今のゼロ%程度から少し引き上げるか一定の幅を許容する>などで「柔軟化」する方針を示す案だ。金融機関の運用改善を狙う。国債や<上場投資信託(ETF)の買い入れ手法も課題>だ。 ※< >は筆者)