舞台「桃源暗鬼」-練馬編- ゲネプロレポート スピーディーなバトルアクションと共に、キャラクターの個性も濃厚に
2020年に「週刊少年チャンピオン」で連載を開始した、漆原侑来『桃源暗鬼』。誰もが知っている昔話「桃太郎」を大胆にアレンジした、鬼と桃太郎それぞれの末裔による因縁の対立が続く世界で、主人公・一ノ瀬四季(阿部顕嵐)と羅刹学園、そして鬼機関の仲間たちが桃太郎機関を相手に激しい戦いを繰り広げていく物語だ。2024年2月の舞台第1弾に続き、1月4日(土)に開幕した第2弾では東京都練馬区で展開する彼らの対立を描いている。初日に先立って行われた、ゲネプロの模様をお伝えしよう。 【全ての画像】舞台「桃源暗鬼」-練馬編-の模様(全11枚) 舞台は、四季が自分は鬼の血をひいていると知り、桃太郎機関に対抗するための軍隊学校・羅刹学園に入って京都での戦いに参戦するという前回公演のダイジェストが映し出されて始まる。今回初めて観劇する観客への導入としてこれまでの物語を紹介すると同時に、前回公演を観劇した観客にとっても嬉しい映像だ。 そして今回の公演では、四季たちが指導教官の無陀野無人(立花裕大)に率いられて鬼機関の練馬にある偵察部隊の活動を学びに行ったことをきっかけに事件が発生する「練馬編」が、テンポよくスピーディーに、そしてパワフルでありながらスタイリッシュなステージとなって観客を魅了する。それは、アンサンブルの縦横無尽なパフォーマンスとその場の中心となっているキャストの熱演、そして映像演出をはじめとするスタッフの堅実な技術、すべてが高い精度で集約されてこそ可能となっているもの。 原作で描かれている、さまざまな特殊能力をどのように舞台上で具現化するか。デジタル(映像や照明、音声)とアナログ(人力で動かす大道具やアンサンブルの身体表現)とが巧みに融合されて現出したバトルアクションは、紛れもなく演出の松崎史也、殺陣振付の竹村晋太朗らがこれまで携わってきた数々の舞台で培ってきたスタッフワークの賜物だ。 そうしたステージングの中で描かれるのは、四季と羅刹学園の同級生たちによる青春、四季と桃寺神門(酒寄楓太)の友情と対立、四季と羅刹学園のひとり・皇后崎迅(高橋怜也)の共闘と連帯、桃巌深夜(武子直輝)の謀略など、ある意味“王道”なストーリー。ひとつひとつの要素は定番とも言えるが、個性の強いキャラクターたちによるそれは物語の強度にもつながっている。 それぞれのキャラクターが魅力的に描かれているなかで、今回特に印象的だったのは、主人公である四季はもちろんのこと、ストーリー上で彼との関わりが大きかったふたり、桃寺神門と皇后崎迅。そしてバトルシーンにおいては無陀野無人、矢颪碇(草地稜之)や桃太郎機関の桃華月詠(岸本勇太)と桃角桜介(相澤莉多)もインパクトが強い。それぞれのキャラクター性を芝居で巧みに表現しつつその心情にも説得力があり、かつバトルシーンではケレン味たっぷりに魅せてくれる。原作、そしてそのキャラクターのファンにとっても大満足の仕上がりではないだろうか。 もちろんその他のキャラクター、羅刹学園の遊摺部従児(廣野凌⼤)や手術岾ロクロ(灰塚宗史)、屏風ヶ浦帆稀(宮河志帆)、漣水鶏(山﨑紫生)、練馬偵察部隊の淀川真澄(佐藤永典)や並木度馨(中村泰仁)、ピンポイントながら美味しいところをもっていく花魁坂京夜(田口涼)もそれぞれの見せどころをしっかり務めて存在感を発揮している。 そして何より、四季としてこの舞台の芯となっている阿部顕嵐。荒っぽい面が多々ありながらもまっすぐな正義感があり、自身の能力が暴走してもそれに抗う精神力の持ち主という、四季が見せる多面的な表情をコミカルなやりとりも含めて魅力的に体現している。阿部の四季あっての舞台「桃源暗鬼」なのだという、彼の俳優としての器の大きさ、強さ、そしてカンパニーからの信頼も感じられるのではないだろうか。 また、このステージになくてはならないアンサンブル、晨火、淡海優、岡村圭輔、黒田ひとみ、佐竹正充、髙原華乃、西分綾香、長谷川桂太、日置翼、藤島望の奮闘ぶりは賞賛するほかない。 もうひとつ付け加えるなら、これは原作のビジュアルの素晴らしさだが、四季たち羅刹学園のユニフォームが黒ベースに赤をポイントに効かせたカジュアルなデザインであるのに対して、神門たち桃太郎機関は白ベースにストライプが入ったスーツであるという強烈なコントラスト。ステージ上に彼らが出そろった時のビジュアルの華、そして圧はとてつもない。 練馬編として物語はひとつのピリオドを打つが、原作の物語は以降も続いており、舞台もまた続編があることを期待させる。キャストが、ステージが、さらなる進化をとげることを見届けたくなるものの、まずは今回のステージを満喫したい。そんなワクワクする公演は、1月19日(日)まで天王洲 銀河劇場にて。 取材・文/金井まゆみ (C)漆原侑来(秋田書店)/舞台「桃源暗鬼」製作委員会 <公演情報> 舞台「桃源暗鬼」-練馬編- 日程:1月4日(土)~19日(日) 会場:天王洲 銀河劇場