ひさしぶりの小川山。リハビリを兼ねて「セレクション」を登る|筆とまなざし#376
川上村に先日オープンした「ROOF ROCK」。名前の由来は小川山のシンボルともいえる「屋根岩」から。
5月の小川山は極上である。シラカバやカラマツの新緑、キラキラと輝く麗かな光、乾燥した空気と爽やかな風。19時になっても明るい空はどこまでも高い。先週、ひさしぶりに訪れた廻り目平はすばらしい気持ち良さだった。 ケガのためクライミングに出かけられていなかったのだが、リハビリを兼ねて少しずつ動き始めた。右足を正体で強く踏み込まなければクライミングをしてもいいそうで、難しいルートやクラックでなければそれなりに登れる。ということで、友人を誘って易しいマルチピッチルートを登りに出かけたのである。小川山には3~5ピッチほどの短くて易しいマルチがいくつもあり、まだ登ったことのないルートも多い。クラックは出てくるがしっかりとフットジャムしなくても登れるだろし、こういったタイミングにはちょうどいい。なにより、気持ちの良い日差しの下で友人とマルチピッチを登るのは楽しいものである。 小川山のマルチでもっとも人気が高いのは「セレクション」(5。8、7ピッチ)だろう。クラック、スラブ、木を交えたクライミングや露出感の高いトラバースなど変化に富んだ内容で、グレードも手ごろ。支点もよく整備されていて初めて登った小川山のマルチが「セレクション」だという人も多い。かくいう自分もそのひとりで、これまでに4回ほど登ったことがある。 「初めて小川山に来たときに登ったのが『セレクション』だったんで、お店の名前を『ROOF ROCK』にしたんですよ」。 今年4月、川上村でクライミングショップ「ROOF ROCK」をオープンさせた北平さんはそう言った。 廻り目平の背後には小川山のシンボルともいえる「屋根岩」が連なっている。駐車場から見て右から1峰、2峰と続き、5峰の奥に本峰がある。「セレクション」はもっとも見栄えのする2峰にあって、そのすっきりとしたフェイスにはこれまたクラシックなフィンガークラック「蜘蛛の糸」(5。11c)が遠くからでも眺められる。いまから10年ほど前だろうか、北平さんといっしょに「セレクション」を登りに来たことがあった。「ROOF ROCK」というとルーフの高グレードルートがひしめく岩を想像してしまうがそうではなく、「屋根岩」を英語にして名付けられたのだった。 小川山からの帰りに「ROOF ROCK」に初めて立ち寄った。北平さんと会うのは昨年の小川山シーズン以来だし、お店には顔馴染みの友人が屯していて、ひさしぶりに会うのにひさしぶりな感じがしないのがうれしい。いまではワイドクラックフリークとして知られる北平さんらしく、レジの横にはバレージャイアントなどワイドクラック用の大きなカムが飾られていた。 一般的に拳を横向きにしたフィストジャムより幅の広いクラックをワイドクラックと呼ぶ。片手ではクラックの幅を埋められないので両手でジャミングをする場合もある。それをリービテーションというのだが、その技は大型カムと並んでワイドクラックを象徴するモチーフである。 ひとしきり話をしたあと、スリングを1本買って「ROOF ROCK」をあとにした。薄暗くなった川上村の農道を走りながら、リービテーションの絵を描こうと思った。
PEAKS編集部