心身の健康を害する「VDT症候群」から子供を守りたい…スマホやパソコンが要因に
子供のスマホやパソコン(VDT)の使用が当たり前になり、わが子の目の健康が気になる親は多いだろう。 裸眼1.0未満の小学生38%で過去最多…急増する子供の近視は「レッドライト治療法」で抑え込む 近年、長時間ディスプレーを見続ける習慣によって、まぶしさや見えづらさ、肩こり、イライラといった心身の不調が生じる「VDT症候群」が疑われる児童が増加しているという。「ひの眼科・皮フ科」院長の日野翔太氏に聞いた。 ◇ ◇ ◇ 眼球の表面には角膜があり、傷つかないよう涙液によって保護されている。ところが画面を凝視する時間が長いと、通常1分間に約30回行っているまばたきの回数が3分の1から4分の1にまで減少。眼球が乾燥して痛みが生じるドライアイを引き起こす。 「涙の量が不十分で質が悪くなると、角膜の表面を覆う涙の層の厚さが一定ではなくなります。すると目に入る光が散乱してピントが合わなくなり、まぶしさや見えづらさのほか、ピントを調節しようと無意識に目や体に力が入って肩こりや腰痛、イライラといった全身の不調を招くのです」 さらに、液晶モニターから放射されるブルーライトには、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑える作用がある。不眠で自律神経が乱れると、食欲の異常(過食、食欲減退)、胃腸障害、抑うつや不安障害につながる危険もあるというから注意したい。 VDT症候群の原因は長時間のスマホゲームや動画視聴などさまざまだが、日野氏が指摘するのが学校現場におけるICT(情報通信技術)教育化だ。 「文科省が推進する『GIGAスクール構想』の実施に伴い、2020年ごろから全国の小中学校に通う児童に対し、1人1台の学習用タブレット端末が支給されました。学校によってはすべての科目でタブレットが使用され、そうなると1日5~6時間は手元の画面を見ることになります。子供はまだ目の機能の発達が十分でなく、大人に比べて眼筋の柔軟性が高い。長時間にわたって画面を見続けていても目の疲れを自覚しにくく、気付かないうちに目に負担が蓄積されやすいのです」 VDTによる目や心身の不調は、適切な環境整備によって予防が可能だ。 スマホやタブレットを見る際は、部屋の明かりを必ずつけ、画面の明るさは本人がまぶしさを感じず、かつ暗すぎない程度に適宜調整する。 また、横になった姿勢でスマホを操作すると、画面との距離が近くなりやすい。椅子にしっかりと腰をかけ、画面との距離は30~40センチ離れるのが理想だ。 「先述した通り、子供は目の疲れを自覚しにくい。画面を凝視する作業は長時間の連続にならないよう30分に1回は休憩を挟み、その都度、窓の外の遠くを眺めるなど、目を休ませる習慣を身に付けるといいでしょう。また、市販のホットアイマスクは、目元の血流が促されて眼筋の緊張をほぐしてくれるうえ、リラックス効果により睡眠の質も改善されやすいのでおすすめしています」 ■急性の「斜視」も増加中 近年、VDT症候群と同様に問題視されているのが、片側の目が内側に寄る「急性内斜視」の増加だ。 通常、目は近くの物を見ようとすると、目を内側に向ける内直筋が収縮して“寄り目”になり、遠くを見る際には眼球を外側に引っ張る外直筋を収縮させて焦点を調節している。 しかし、至近距離でスマホやタブレットの画面を凝視し続けると、内直筋が収縮し続けて眼球が正常な位置に戻らなくなり、左右一方の目が内側に寄った状態で固定されてしまう。 「両目の視線が一致しなくなると、モノが二重に見える複視や、立体感や遠近感がつかみにくくなります。するとピントを合わせようとまばたきの回数が多くなったり、球技や平均台が不得手になるといった兆候が見られるケースも少なくありません」 急性内斜視は、画面を見る時間をそれまでの半分に減らすと、3カ月程度で徐々に改善するといわれている。複視が強い場合には、目に入る光を屈折させて複視を矯正する「プリズム眼鏡」を着用するが、それでも治らない場合には内直筋の位置を移動させる手術が検討されるという。 子供の場合、目に何かの異常や違和感があっても、それをうまく伝えられないケースもある。子供の目を守るためにも、親は子供の様子をよく確認し、不調があれば眼科を受診することだ。