大谷翔平の「好きな漫画」に納得…米記者が「オオタニは日本だからこそ誕生した」と語るワケ
「吾郎の情熱が野球をもっと好きにさせてくれた」
むしろ彼のような選手は、日本だからこそ誕生した。 二刀流の選手は、日本に以前から存在した。それは主に想像の世界ではあったが、それでも存在していたのは間違いない。つまり大谷は、既存のコンセプトを具現化した存在なのだ。 だからこそ、2015年に続編である『MAJOR 2nd』の連載が始まると、週刊少年サンデーは、この漫画の主人公・茂野吾郎にインスピレーションを受けた野球選手に推薦の言葉を求めた。 『MAJOR2nd』の新聞広告には、大谷の「吾郎の情熱が野球をもっと好きにさせてくれた」というコメントが掲載された。 日本では、アメリカでは想像できないほど「マンガ」が社会に浸透している。ジャンルは幅広く、大人向けの作品も多い。日本は、大人向けと子ども向けの娯楽にアメリカほど明確な境界線がない。そのため、漫画や漫画を原作としたテレビアニメが人気を博すと、社会のあらゆる階層に受け入れられる。 たとえば今年、大谷のエンゼルスでの登場曲として使われたのは、超自然的な呪術の力を操る高校生を描いた『呪術廻戦』のアニメ版のエンディング曲だ。 漫画は息苦しい現実からの避難場所になる。漫画の世界では、どんなことでも可能だ。 戦士からワインテイスター、教師、探偵、外科医、シェフまで、あらゆる職業や肩書きの人物を主人公にした漫画がある。 もちろん、スポーツ選手を主人公にしたものも。 スポーツ漫画の登場人物は、超能力を持っていることが多い。ピッチャーが投げたボールが消えたり、サッカーのシュートがゴールネットを燃やしたり。
現実が「漫画」を模倣する
そして、現実は、しばしば芸術を模倣する。 漫画『スラムダンク』は日本におけるバスケットボールの知名度を高め、2016年の国内プロリーグ「Bリーグ」発足を後押しした。またこの漫画は、NBAワシントン・ウィザーズの八村塁をはじめ、新世代の選手たちを生み出す原動力にもなった。 史上最も有名な日本のサッカー選手は、茂野吾郎と同じ架空のキャラクターで『キャプテン翼』の主人公、大空翼だ。この漫画の作者・高橋陽一の出身地、東京都葛飾区には、大空翼の銅像が4体も設置されている。 日本とアメリカのサッカーは時を同じくして発展してきた。Jリーグは1993年に、メジャーリーグ・サッカーは1996年に開幕している。歴史的に、アメリカは各ポジションの選手をバランスよくヨーロッパに送り込んできた。一方、日本からヨーロッパに移籍する選手はなぜか攻撃的MFが多い。単なる偶然かもしれないが、これは大空翼のポジションだ。 たしかに、中田英寿はヨーロッパで実績を残したし、19歳の久保建英も大きな将来性を示している。だが、大空翼に匹敵する活躍をした日本人サッカー選手はいない。
現実がフィクションを上回った
しかし、大谷は違う。 大谷が今現実の世界でやっていることは、漫画の世界でも前例がない。 『MAJOR』では、茂野吾郎はサイ・ヤング賞を2回受賞し、ワールドシリーズにも出場している。プロとして投手と打者、両方で活躍したが、二刀流ではなかった。打者に転向したのは、肩を負傷してからだ。 つまり大谷のケースでは、現実がフィクションを上回っている。 ただし、茂野が勝っている点も1つある。彼はメジャーリーグで、もともとの利き腕とは逆の腕でピッチャーをしていた。小学生時代に右肩を痛め、左投手になったのだ。
Los Angeles Times、児島 修