テストは暗記力を問うだけ、成績は紙で管理…インド出身の公募校長が日本の教育現場で感じた「古臭さ」
■大谷翔平のマンダラチャートを活用 生徒の面接試験の練習を実施することがありますが、彼らには、質問に対する回答を考える基本的なフレームワークができておらず、難しい質問を出すと回答に窮して沈黙するのです。どんな質問であっても、さまざまな角度で分析して、自分なりの回答を出して話す力が身に付いていないのです。 現在、専門家を交えて中高の6年間での探求学習の在り方を考えています。これまでも探求学習はありましたが、その有効な実施のためのテンプレートがなく、単に問題や課題を選び、アドバイスを受けたり、人に聞いたりして調査し、最後に感想を書くという流れでした。 探求学習には、課題ベースと目標ベースの探究があります。これまでは、一つの課題を考えて探究していましたが、今後は課題や興味・関心のテーマを10個ずつ書き出して整理し、プライオリティをつけてから一つのテーマで探究を行いたいと思います。 また、大谷翔平選手が使ったことでも有名になった曼荼羅表(マンダラチャート)を導入し、関係者分析やプロセス分析をしながら解決策を考えてみるなどさまざまな手法の導入を進めています。 ■海外大学の見学ツアーだけでは不十分 また、海外の大学への進学も増やしたいと考えています。現在でも、ハーバード大を見学し、大学生や教授と交流するプログラムはありますが、それでは不十分です。実際、過去に見学プログラムに参加した生徒でその後ハーバード大に進学しようとする生徒はいません。 まずは、高校1年の夏休みなどを利用して海外の高校に行き、英語を駆使してボランティアするなどして慣れと自信を身に付けるアプローチもあると思います。そのほうが何倍も効果的でしょう。
■インドではタクシー運転手がビジネスの提案をしてくる 生徒には、いろいろな局面でのサバイバル能力を獲得してもらいたいのです。大学入試も、就職してからの仕事においても、人生はサバイバルの連続です。その中で、自分で考えて対応し、強く生き残っていく必要があるのです。学校の中でも、他人からのちょっとしたひとことで心に傷を負ってしまう生徒もいます。 他人から何かを言われたくらいで、自分の人生に何か問題があるのでしょうか。何もありません。そのように考えてほしいです。しかし、サバイバル能力がないと物事をいちいち気にするのです。他人から突っ込まれたら、簡単に凹むのではなく、相手に対して面白く切り返せばいいのです。 インド人のサバイバル能力はとても高いのです。タクシーに乗れば、運転手からさまざまなビジネスや商売の提案が出てきます。路上でホームレスの貧しい子供が、捨てられたガラクタを集めて作った物を売りに来ます。彼らは自分で考えて必死に生きています。日本では社会保障制度で守られ過ぎているのかもしれませんが、もしその制度が機能しなくなると何もできなくなるのではと危惧しています。 ■推薦入試をどんどん推進 生徒たちをルールで縛り、違反するたびに罰を与えていては、自己肯定感は決して育ちません。生徒会の中でも、摩擦を避けて自由でフランクな議論は出ないでしょう。それは大人の社会と全く同じことです。生徒会委員の選挙も無投票で決まることが増えていますが、それは地方の市町村議会選挙でも同様な状況です。それでいいのでしょうか。 私が校長に就任してからは、具体的な対策として、弁論大会などの外部での活動への積極的な参加を奨励しています。ボランティア活動をしている生徒には、関連大会への参加を呼び掛け、表彰もされました。インド系の学校や米国の大学との交流も始めました。 大学進学で推薦入学について積極的でない学校もありますが、私は推薦入学をどんどん推奨しています。そうすることで、単なる試験の点数以上のレベルの大学に入学でき、本人の将来にとってより良い影響をもたらす可能性があるからです。生徒自身の基本さえできていれば、推薦入学であっても、入学した大学で必ず上を目指すと確信しています。 (後編に続く) ---------- プラニク・ヨゲンドラ(Puranik Yogendra) 茨城県立土浦第一高校・付属中学校長 1977年、インド・ムンバイ生まれ。インド・プネ大学で学士号と修士号を取得。グローバスIT企業で約13年勤務後、2010年にみずほ銀行入行、2019年には楽天銀行に企画本部副本部長として入行するも、同年4月の東京都江戸川区議選に出馬し初当選。2021年東京都議選では落選。茨城県の民間人校長公募に応募し、22年4月より同校副校長、23年より現職。 ---------- ---------- 西川 裕治(にしかわ・ゆうじ) 科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員 1951年生まれ。広島大学工学部卒業し、76年日商岩井(現・双日)入社。20年間海外営業を担当し、インドネシア、スリランカに駐在。広報室、人事総務部、日本貿易会出向を経て、12年より日本在外企業協会『月刊グローバル経営』編集長。15~18年 科学技術振興機構(JST)インド代表を経て、22年より現職。23年よりJSTアドバイザ。世界の優秀な若手人材を日本に招聘するJSTの「さくらサイエンスプログラム」の推進に携わる。 ----------
科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員 西川 裕治