J-REITも企業のように成長可能 資金調達など財務戦略はどう決まるのか
日本版不動産投資信託(J-REIT)の投資の対象やその利益の源泉について説明をしていきました。投資家にとって最も気になるのが、投資しようとしているJ-REITの銘柄が将来、どのくらいの利益を生み出せるかです。投資の判断材料にもなる成長戦略がどのように検討されていくのか、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティングの田渕直也さんが解説します。
内部成長と外部成長
企業が成長をめざすのと同様に、J-REITも成長していくことが可能です。J-REITの成長戦略としては、内部成長と外部成長という2種類のものがあります。 内部成長は、前回触れたように、付加価値の増加によって適正賃料水準を引き上げたり、各種費用のコストパフォーマンスを向上させたりして、既存物件のNOI(賃貸収入からこの営業管理費用を差し引いたもの)を上昇させることを意味しています。企業努力によって収益性を改善し、それによって利益の成長を図るものといえます。 これに対して外部成長は、新規物件を取得することで、規模的な拡大をめざすものをいいます。ただし、外部成長によって収益性の改善を実現することも可能ですし、内部成長を引き出す効果も期待できます。 たとえば、収益性の高い新規物件を取得すれば、利益の絶対額が増加するだけでなく、全体の利益率の向上に寄与します。また、運用する物件が増えることで、物件の管理やテナント向けサービスの共通化、ブランド化を推進しやすくなり、既存物件の内部成長につなげることも可能です。
物件取得のための財務戦略
新規に物件を取得して外部成長を実現するには、資金調達をどうするかという財務戦略がとても重要なものになります。 J-REIT、すなわち投資法人の主な新規資金調達手段としては、 (1)銀行からの借入 (2)投資法人債の発行 (3)投資口の追加発行(PO) などがあります。 (1)の銀行からの借入は、最も機動的に資金調達ができる手段です。ただし借入は、取得した物件で損失が生じた場合でも、借入れた金額に利息を上乗せした金額を必ず返済しなければなりません。こうした性質を持つ資金調達源を「負債」と呼びますが、負債が増えすぎると返済負担が重くなり、財務の安定性を損なうことになります。 (2)の投資法人債は、投資法人が発行する債券のことで、一般企業の社債と同じものと考えていただければ結構です。銀行借入と同じ負債に属するものですが、特定の銀行ではなく、幅広い投資家から直接資金を調達できるので、銀行に依存しない資金調達ルートを確保できると同時に、資金調達コストも抑えることができます。また、銀行借入が比較的短期間で返済期限が来るのに対して、債券は償還期限を長めに設定することも可能です。 (1)と(2)が負債に属する資金調達手段であるのに対して、(3)の投資口の追加発行は、返済の義務がない「自己資本」と呼ばれるものに属します。