J-REITも企業のように成長可能 資金調達など財務戦略はどう決まるのか
パブリック・オファリング(PO)
投資口は、一般企業の株式に相当するもので、利益の分配(配当)を受け取ったり、投資法人の運営に関する重要な基本事項の決議をする権利が付された出資証券です。その代り、出資金には返済義務がなく、利益が出なければ配当を支払う必要もありません。 企業(投資法人も含む)は、負債を返済できなくなったときには経営が破たんしたとみなされますが、自己資本を使って損失が生じても、自己資本には返済の義務がないので破たんにはなりません。つまり、自己資本は損失に対するバッファーとなっていて、財務を安定化する効果があるのです。 そのため、新規物件の取得で外部成長を続けていく際には、財務の安定性を保つために、適宜に投資口を追加発行する必要が生じてくるわけです。いわゆる増資ですね。この増資のやり方にはいくつかの方法がありますが、J-REITでは特定の投資家が投資口の多くを保有する状態は望ましくないので、公募形式で広く投資家を募って増資するのが一般的です。これをパブリック・オファリング(PO)と呼びます(上場時に行う公募増資は、“最初の”という意味のイニシャルが頭につき、IPOと呼ばれます)。 先ほど、自己資本は返済の義務がなく、損失のバッファーになる資金調達手段だという話をしました。ですが、投資家の立場からすれば、損失になってもいいから自由にお金を使ってくれというわけにはいきませんよね。投資家はあくまでも、増資によってJ-REITが利益成長を果たし、投資家にその利益が還元されることを期待してPOに応じるわけです。 ですから、POを成功させるためには、投資家を納得させるだけの成長シナリオが重要になります。つまり、財務戦略は資金調達のバランスをとるだけでなく、成長戦略と一体のものでなければならないのです。 ちなみに、J-REITが投資をしている物件の価値の総額に対する有利子負債額(≒銀行借入額+投資法人債発行額)の割合をLTV(Loan to Value)と呼びます。LTVが高いということは、それだけ負債に頼りすぎていることを意味します。逆に言うと、損失のバッファーとなる自己資本が不十分で、経営破たんの可能性が高いということになります。LTVは、財務の安定性を測る重要な指標というわけです。 実際のJ-REITのLTVの平均的な水準は、およそ50%前後となっています。 (ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役・田渕直也) 著書に『入門 JーREITと不動産金融ビジネスのしくみ』、『入門 金融のしくみ』『世界一やさしい金融工学の本です』(すべて日本実業出版社)。