子供時代に触れた日本文化への愛を込めて。「昭和米国物語」チーフプロデューサー・羅 翔宇氏インタビュー
NEKCOM GAMESは、プレイステーション 5/PC用RPG「昭和米国物語(Showa Amarican Story)」を2025年に発売する。価格は未定。 【画像】NEKCOM GANESの代表取締役会長であり、「昭和米国物語」のチーフプロデューサーの羅 翔宇(ロウ ショウウ)氏 現在明らかになっている情報は、舞台は強大な経済力で日本がアメリカを支配した昭和66年の「昭和アメリカ」であり、プレーヤーは死から蘇った少女「蝶子(ちょうこ)」となって自分を殺した犯人を追い、真実を求めて復讐するストーリーということだけだ。 NEKCOM GANESは中国のゲームメーカーで、中国・武漢の開発本部のスタッフによって本作は制作されている。「なぜ日本?」、「どうしてこの世界観?」、「どうして昭和?」などなどPVを見るだけでクエスチョンマークで頭がいっぱいになる「昭和米国物語」だが、今回本作を制作するNEKCOM GANESの代表取締役会長であり、「昭和米国物語」のチーフプロデューサーの羅 翔宇(ロウ ショウウ)氏に話を聞いた。 中国では羅氏の子供時代から日本文化、1980年代の日本文化が積極的に採り入れられ、羅氏はこの文化に触れて育ち強く影響を受けたという。「昭和米国物語」は羅氏の1980年代の日本文化への強い想いが前面に出たゲームである。その熱い想いに触れて欲しい。 ■ 自分の子供時代の印象に基づく、1980年代日本の流行文化を再構築・再解釈! ――「昭和米国物語」のPVからは本当に魅力的な世界観が伝わってきました。しかしやっぱり一番最初に聞きたいところは、「昭和66年」という時代設定、「日本に支配されたアメリカ」という、非常にユニークな世界観です。なぜ中国のメーカーであるNEKCOM GANESが、このユニークな世界でゲームを作ろうと思ったのでしょうか? 羅氏:私たちは1980~90年代に海外から様々な情報が入ってくる中で育ちました。その文化はこれまで自分の生活にはなく衝撃でした。特に自分の中で影響が大きかったのが、1980年代の日本の文化です。"外国文化"としてとても衝撃的で、影響を受けました。日本のアニメ、ドラマ、文化、すべてが新鮮だったのです。 アメリカからの影響もありましたが、日本の文化の影響が大きかった。このゲームの"昭和感"は自分の原体験、当時影響を受けた日本の文化への記憶が原動力となっています。私たちのスタッフの中には、私と同じ時代体験をしている人が多く、「日本の昭和文化」を「昭和米国物語」の核にしようということでまとまったのです。 ――日本文化への親近感、というのは非常に伝わります。特に1980年代のドラマや映画らしいむちゃくちゃさも感じました。しかしそこから「日本に支配されたアメリカ」、「ゾンビと戦う」というぶっ飛んだコンセプトに繋がったのはどうしてですか? 羅氏:まずは「斬新なゲームを作りたかった」というのが第一にあります。1980年代は日本にとってアメリカの文化の影響がとても強かった時代だと、私は感じました。「もし逆だったら?」と思ったんです。1980年代の日本文化に染まったアメリカ、現実とは異なる歴史で、全く様変わりしてしまっているアメリカを描いてみたかった。私たちは1980年代、日本の文化に非常に影響を受けました。同じように影響を受け大きく変わったアメリカという世界を作ってみたくなりました。 しかしそれを真面目に描いてしまうと、ドキュメンタリー風のシリアスなゲームになってしまう。私はギャグテイストの面白いゲームが作りたかったんです。このためゾンビを導入し、ゾンビの大群を吹っ飛ばすような爽快なゲームを目指しました。そして「昭和66年」というのは、架空の雰囲気と、親近感が感じられる絶妙な世界ではないか、と考えたのです。 ――やはり中国のスタッフが、昭和をテーマに日本要素たっぷりのゲームを作る、というところに面白さを感じます。このゲームのメインターゲットは日本のユーザーなのでしょうか? 羅氏:ターゲットユーザーは「グローバル」です。アメリカでも日本文化はすごく受けていますし、欧米でも日本に興味を持つ人は多い。発売時はオリジナル言語として、中国語と、日本語で音声収録し、英語は字幕対応で行う予定です。音声はオリジナルを中国語で作り、翻訳して台詞を収録していきます。声優さんなどもしっかりリサーチしているので期待して下さい。 ローカライズもこだわっています。ローカライズスタッフが、世代が違っちゃうと、私たちの目指す面白さを再現しきれない。このためローカライズ、雰囲気など、そういったところも私たちがしっかり監修を行っています。 ――世界観はムービーでも伝わるのですが、ストーリーなどもう少しディテールを教えていただけますか。 羅氏:それはこれから明らかになる要素で、今はまだお話しできません。ゲームの基本的なスタイルは「ハーフオープンワールド」といえる、ゲームの進行と共にアメリカ大陸を移動し、様々な都市を巡っていくのですが、その都市内で自由に動き回ることができるRPGとなります。 メインストーリーを進めていくと舞台が変わっていき、そして行動範囲が増えていきます。開放された地域ではサブクエストなども登場します。ステージクリア型のゲームの感覚に近いですが、フィールドを自由に動き回り探索できる要素もしっかり用意する予定です。 ――各都市はアメリカの権力者や、日本のマフィアに支配されていて、それらと戦っていく、という感じなのでしょうか? 羅氏:アメリカの都市は様々な勢力に支配されている。主人公は生き別れた妹を探して戦っていく。今言えるのはここまでですね(笑)。 ――ムービーを見ると敵を倒すアクションなどにすごく力を入れている印象を受けました。 羅氏:アクションではなく、ジャンルとしてはRPGです。戦闘はリアルタイムのアクションバトルですが、間口が広く、誰でも楽しめるゲームを目指しています。難しい操作やシビアなタイミングを要求するようなゲームではなく、カジュアルに楽しめるゲームとなります。 まだ触っていただくことは先になりますが、楽しくプレイできるゲームになりますよ。 ――ムービーの中でも巨大なドリルとか、多数の敵をなぎ払う技など、面白い技が出てきましたが、「ユーザーにこれを見てもらいたい」というド派手な技はありますか? 羅氏:まだ語れないのですが、「ムービーで紹介しているのは、ほんの一部だ」ということだけは言っておきます。出しているのは「普通」のものです。まだまだぶっ飛んだ、面白い要素山盛りですので、期待して下さい。 ――「大事MANブラザーズバンド」や「わらべ」など、1980年代を知っている筆者にとって非常にグッと来る楽曲でした。こう言った要素もまだまだ入っていますか? 羅氏:もちろんです。1980年代を知っている人ならニヤリとせずにはいられないこだわりの楽曲を収録しました。収録曲は当時を知っている人なら楽しいものばかりです。音源は1980年代当時のものを使用しています。権利関係など非常に大変でしたが、こだわりました。 面白かったのは、日本の若い世代は、私たち外国人にも分かるような懐かしいネタをもう知らないことに驚きました。逆に私たち世代の中国や、海外の人は懐かしいと感じる。このギャップとも言える反応も面白いと感じています。 「今の日本の若い人にはわからない日本の要素を盛り込んでいる」というのは、このゲームを作る過程にとって、面白いものでした。 ――曲はどんなときに流れるのでしょうか? ゾンビをバッサバッサ切ってるときに「もしも明日が」が流れたりするんでしょうか? 羅氏:ムービーシーンなど楽曲の使用箇所も見所です。楽曲に関しても権利関係を調整してくれたスタッフに「わかってるなあ」といわせたチョイスです。たくさんの楽曲を使っていますので、期待して下さい(笑)。 ――日本の要素をふんだんに盛り込んだ「昭和米国物語」ですが、日本人の監修スタッフ、というような人もいるのでしょうか? 羅氏:いません。すべて私と、開発チームの記憶と感性で作っています。あの頃の思い出、想い、そういうものを込めて開発しています自分たちが記憶している日本文化、それにより作られた「日本に支配されたアメリカ」なので、外から「正しい/正しくない」という意見は必要ないと想っています。この独特の世界だからこそ、海外、アメリカや別の国でも魅力を感じてもらえると思うんです。 ――PVではかなり過激な暴力描写、ド派手なアクションなどが入っていますが、これらは1980年代の日本のドラマなどの影響なのでしょうか、それとも現代風の感覚として取り入れたものですか? 羅氏:中国の文化としては過激な表現、暴力描写などは見せない方向性でした。入ってくる日本の文化としてもそういう過激なものは抑えられていた背景があります。過激さはアメリカのB級映画への想いですね。私はアメリカのB級映画をたくさん見ました。ド派手で過激な表現のアメリカのB級映画のノリを採り入れています。「暴力」、「ロマン」、「コメディ」これが「昭和米国物語」の3つの柱になります。 ――日本文化、アメリカのB級映画、羅さんにとっての「自分の好きなもの」を集めて形にしたようなゲーム、ということでしょうか? 羅氏:その通りです。アメリカのB級映画は私の感性、価値観に大きな影響を与えてくれています。私の意見ですが、最近のアメリカ映画や、日本映画って「マイルド」になっちゃったんじゃないかと思っているんです。だからこそ、自分が好きだった、影響を受けた過激さ、ぶっ飛んだ価値観を「昭和米国物語」には込めています。 ――非常に共感できます。失礼ですが羅さんはおいくつなんですか? 羅氏:41です。1980年代の文化というと日本では50歳前後の方に共感いただけると思うのですが、日本の文化はリアルタイムではなく、少し遅れて中国に入ってきていたので、私たち世代は1980年代の日本のコンテンツにたくさん触れたのです。 日本に来ると「東京タワー」など、1980年代のドラマにも出てきた関連する要素を見つけて嬉しくなります。今回は神保町でインタビューしたのですが、古本屋がたくさんあります、しかも神保町は多くのゲームやアニメ作品に登場しているので、既視感があります(笑)。 ――「昭和米国物語」は2025年発売とのことですが、発売はいつ頃になるでしょうか? 現在のゲームの完成度も教えて下さい。 羅氏:発売時期の詳細はまだ明かせません。完成度は80%というところでしょうか、これまで作った各要素を統合し、作り込んでいきます。 ――最後にこのゲームの発売を待ち望んでいる日本のファンへのメッセージを。 羅氏:「昭和米国物語」は私の子供の頃の思い出をたくさん詰め込んだゲームです。ひょっとしたら日本の方にとって「これはちょっと当時の日本と違うぞ」と思うところがあるかもしれませんが、その違いこそが面白さに繋がります。ゲームは作り手とユーザーの交流だと思っています。ぜひ皆さん、「昭和米国物語」の発売を楽しみにして下さい。 ――ありがとうございます。 作品からあふれる「日本の1980年代の文化へのリスペクト」にむせかえりそうになる「昭和米国物語」だが、話を聞き、その世界観へのこだわり、自分たちが思い描く世界を実現する事への強い想いにしっかり触れることができたと感じた。日本文化だけでなく、B級映画への想い、「面白さ」をひたすら追求する生真面目な姿勢。話を聞いてゲームへの期待が否が応でも高まった。続報を心待ちにしたい。 (C) 2011-2024 NEKCOM Inc. All Rights Reserved.
GAME Watch,勝田哲也