「無花粉スギ」の発見から20年…岸田首相の目標「30年後には半減させる」は実現可能か?
日本からスギ花粉がなくなる日は来るのか…
花粉症には悩ましい季節が続く。 昨年、岸田首相は花粉症対策の関係閣僚会議を開き、スギの人工林を今後10年で2割減らし、30年後には花粉の発生量を半減させるという目標を掲げた。その先陣を切って無花粉スギの植栽を行っているのが富山県だ。 「一度消失した細胞は再生しません」1週間・40時間以上、大音量で聴き続けると耳の感覚細胞が… ’92年、花粉飛散の調査中に偶然富山市内の神社で無花粉スギを全国で初めて発見。20年後の’12年には、無花粉スギの実用化に成功した。それにしても発見から20年もかかったのはなぜ? 挿し木なら、見つかった無花粉スギの枝をちょっと切って土に植えれば、それでいいような気がするが……。 「単に無花粉だからいいというわけではありません。林業で使う場合、成長速度が速く、材質がすぐれ、雪害などに対して抵抗性がある品種でなくてはなりません。見つかった無花粉スギをほかの優れたスギと交配して、納得できる品種を作り出すために20年かかったということです」 こう言うのは、富山県農林水産総合技術センター森林研究所の森林資源課長・斎藤真己さん。 無花粉スギといっても、雌花はある。全国からスギの花粉を集め、無花粉スギの雌花と交配させ、成長・材質にすぐれた無花粉スギになるよう、品種改良していったのだとか。集めた花粉は330種! 生まれた品種は「立山 森の輝き」と呼ばれている。 では、これで挿し木をして、どんどん増やせるようになったかといえば、そうではない。 「親木を育てるのに時間がかかるんです。10万本単位で挿し木をするためには、少なくとも1万本の親木を育てなければならない。必要な親木が育つまでは種と挿し木の2本立てで行っていました」 種で育てると無花粉スギになるのは半分。それをより分けるなど手間をかけ、3年育ててやっと植栽できるようになるのだとか。挿し木なら1年で出荷できる。 「親木が成長して、この1~2年でやっと挿し木だけで増やすことができるようになりました」 ◆10年後にスギ人工林2割減は、問題山積 現在、富山県で生産されている無花粉スギは年間10万本。これまでに福井県、新潟県、石川県に約2万8000本の無花粉スギの苗木を出荷しているという。 富山県だけでなく、森林総合研究所林木育種センターが都府県と連携して’23年度末までに小花粉スギ147品種、小花粉ヒノキ55品種を開発している。その結果、年間1500万本が無花粉スギ、小花粉スギに植え替えられているとか。