特攻隊長は“悟り”をひらいた 死刑囚の棟での信仰「人間は宇宙そのものだ」~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#59
人間は宇宙そのものだ
死刑囚が集められていたスガモプリズンの五棟。二畳の部屋は一人部屋だったが、自殺者が出てから、二人が収容されるようになった。現在の日本の拘置所では考えられないが、アメリカの管理下にあったスガモプリズンでは、誰と同室になりたいという希望が叶えられていた。二畳に二人なので、窮屈ではあっただろうが、気の合う二人は狭い部屋でも気持ちのよい日々を過ごしていたという。床についた時の距離は、50センチほどしか離れていないのではないか。寝顔が良く見えるということである。 <十三号鉄扉 (散りゆきし戦犯)より> 何か考えているな、と思ったが何も言わずにそのまま眠ってしまった。翌日、朝食を済まして煙草を喫いながら彼は 「佐藤さん、人間は宇宙そのものだ。これは絶対間違いない。昨夜やっと分かったよ。こんな事が今迄分からなかったかなあ」 と眼を瞬かしながら話出した。私が心を躍らして 「分かったか、話してくれ」と言うと 「私は言葉では言えないんだ。何と言ったらええかなあ。この気持ちを表す言葉がないんだ。言葉以上の直観だよ」 と、明らかに感性と知性の世界、即ち差別の世界を離れた霊性的な世界を語っていた。勿論、ほんとうの信仰に入る第一段階に過ぎないが、我々は唯有難いことだと感謝の気持ちで胸がいっぱいで、涙がぽろぽろこぼれるのを止めることが出来なかった。 〈写真:横浜軍事法廷での佐藤吉直大佐(米国立公文書館所蔵)〉
死を直前に見つめて
<十三号鉄扉 (散りゆきし戦犯)より> 彼の信仰はこれによって一段と進み、深い安心観と共に仏の大悲に目覚めていったように思われる。しかし彼がここ迄到達する為には並々ならぬ努力を重ねたのであって、死を直前に見つめての精進が実を結んだのであった。 好きな碁もマージャンも止め、信仰の嶺への道を求めて遂に探り当てることが出来たのである。彼の信仰上の大飛躍は我々一同に大きな感銘と希望を与え、信仰に突進する勇気を与えてくれた。この意味に於いて我々の偉大な先覚であり、恩人でもあったと思う。 彼が死をその夜に控えて書き綴った文の中には、国家の現状を憂い、国家再建の任を担う青年達に対し、深い自愛の言葉を以て仏教信仰の尊さを説き、永遠の生命と真の平和の道を書き遺している。 〈写真:スガモプリズン〉 そして、佐藤大佐の追悼文は、幕田大尉との最後の日の記憶へと続いていくー。 (エピソード60に続く) *本エピソードは第59話です。