【Bリーグ】「名前負け」しなかった湧川颯斗がキャリアハイパフォーマンスで示した成長の跡【バスケ】
自身と向き合ったバイウィークがステップアップのきっかけに
出場時間27分21秒、得点12、リバウンド8、貢献度(Efficacy)+20、そしてスティール5。 12月18日のアルバルク東京戦でマークしたこれらの数字は全て、湧川颯斗の三遠ネオフェニックスでのキャリアハイだ。この試合はコンディション不良によって主軸の吉井裕鷹が欠場。誰かがステップアップする必要がある中で、湧川がそれを体現。チームも82-72で中地区のライバル相手に貴重な1勝を挙げた。 序盤からフィジカルな攻防が繰り広げられた試合の中で、今季初先発として試合に臨んだ湧川は、開始1分足らずでいきなりレオナルド・メインデルと小酒部泰暉から連続でボールをスティール。攻めても果敢なドライブからファウルを獲得するなど、攻防で奮闘する。2Qには流れるようなボールムーブから3Pシュートも打ち切り、成功。前半を終えて7得点、3スティールという結果を残した。 だが、スタッツ以上の貢献度を示したのが彼のディフェンスだ。出場した多くの時間帯で、相手の起点となるテーブス海をピタリとマークし自由を与えなかった。スタッツで見るとテーブスは10得点、12アシストと自由にゲームメイクしているように思われるが、これは結果的に自分で攻めてアシストするしかない本意ではないスタッツだったと、テーブス本人が話していた。湧川のディフェンスについても「彼には昔からディフェンスのポテンシャルがあると思っていましたし、スピードもあって腕も長い。そこでストレスをかけられた部分はあったと思います」と評価した。 オフェンスでも、前述したドライブや3Pは効果的に決まっていたし、テーブスとのマッチアップでも逃げずにアタックし、4Q残り7分17秒にはテーブス相手にフィジカルなレイアップをねじ込んだ。この得点で点差を2桁に広げ、A東京はタイムアウトを請求している。得点したという事実ももちろんだが、大野篤史HCは湧川が逃げずに戦い抜いたことを評価した。 「オフェンスはゲームに出ていくうちに自分の点の取り方や存在感を出し方がわかってくると思っています。なので、彼にオフェンスのことはあまり言っていません。それは彼の持っている感性を大事にしたいから。その中で彼はまだ壁にぶつかっていないと思うので。彼が持ってる得点嗅覚は僕はまだまだこのリーグでも発揮できるんじゃないかなと思っています。なので、あれに関しては通常通りかなと思います。それよりも、この間の千葉ジェッツ戦ではビビり散らかして、富樫勇樹選手に対してボディーオンできないとか、“千葉ジェッツ”っていう名前にビビッて自分の持っているものをチャレンジしようとしないとか。そういう姿勢だけはコート上で見せてほしくないです。だから、特にディフェンス面ではそういうことが今日はなかったのですごく良かったと思います」 湧川はまだ20歳。自分よりも経験もフィジカルもスキルも上の選手相手に気持ちの面で対等に戦っていくことは、言葉にするほど簡単ではない。本人もそれを理解した上で、それでも出番を勝ち取り、貢献するために自らを変化させた。 「(初先発でも)マインドセットは本当にいつも通りに、自分の役割を最初からするんだという気持ちでした。3Qの始めでちょっと気持ち的に負けちゃった部分はあったんですけど、そこからは自分の強みであるドライブなどを出せたので良かったなと思います」。テーブスに張り付き続けたディフェンスについても「ハードなディフェンスをした結果の5スティールだったかなと思います。本当にディフェンスはバーウィーク明けから自分でも変わったかなと思うので、そこがこの結果につながったと思います。ボディーオン、オフェンスにしっかりとくっつくことだったり、ハードにフィジカルに守ることやハンドワークを意識してバイウィーク中は過ごしていました。自分のバイウィーク前の試合を見返したら、毎試合ディフェンスが課題だったので、そこが変わるきっかけでした。コーチ陣からもいろいろアドバイスを聞きながら練習しました」 学生時代からサイズがあってハンドラーもできるオールラウンドなオフェンススキルは彼の持ち味だった。だが、年々フィジカルになるBリーグで試合に出て、チームに貢献するためにはまずはディフェンスからだ。バイウィーク中に取り組んだ成果が形になって現れたこの試合は、湧川に大きな成功体験を蓄積させた。そして、チームメイトにも彼の変化はしっかりと映っていた。 「バイウィーク明けからディフェンスへの意識が変わりましたし、練習でマークされたときも体も当ててくるし、味方だと頼もしいですけど、練習中で相手になると嫌だなっていう感じです」 こう語ったのは佐々木隆成だ。大野HCは湧川ら若手についてこう話していた。 「名前負けしてほしくないんですよね。今日の試合でも失うものがあるとすれば、ネームバリューのある向こうのプレーヤーしかないです。湧(湧川)だって(兪)龍海だってが失うものがない、怖いものはないはずなのに、何にビビッているのか分からないけど、(これまでは)自分の持っているものを出し切ろうとしなかった。僕はそこが気になっていたので、そういう面では今日は良かったんじゃないですかね。テーブス選手であったり、すばらしいプレーヤーがアルバルクにはたくさんいるので、そういう中で名前負けせずに…ちょっとでも弱気なところが見えたら代えようと思ってましたけど、そういうこともなく。ああいう経験が次につながっていくと思うので、すばらしいけど試合になったと思います」 選手が成長するとき、そこには必ずと言っていいほど、何かしらの転機がある。湧川のそれは自分のプレーを見つめ直したバイウィーク中である。そして後から振り返ったとき、このA東京戦もその一つになっている日がきっと来るはずだ。
写真・文/堀内涼(月刊バスケットボール)