地方議会が自らルールを決める 全国初「議会基本条例」はこうして生まれた
地方分権の大波と戦う……議員が議会改革のために団結
議会報告会実施を条例化できないか ── 。模索中に議会事務局職員が見つけたのが、札幌市職員の渡辺三省さんが「北海道自治研究」に発表した議会基本条例の試案でした。「内容の7、8割はこれまで実践してきたものだったが、議会報告会について書いてないなど、札幌をモデルとした試案だったので自分たちに合うようカスタマイズしていった」。 制定に向け、ハードルとなったのは「法制度」と中尾さんは明かします。地方議会のことは地方自治法の定めによる会議規則。そこで、新しく議会の活動原則を条例化するために、よりどころとしたのが「地方公共団体の権能」を定めた憲法94条「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、 法律の範囲内で条例を制定することができる」の一文でした。 「議会改革を進める当時の橋場利勝議長の政治姿勢に対し、議員みんなが党派を超えて一緒に取り組むことができたのは、戦う相手があったから」。小泉内閣による行財政改革、平成の大合併 ……、これら「大波と向き合おう」という危機感が議会にありました。 同条例制定から間もない2006年6月、夕張市が財政破綻を表明、自治体が自ら経営責任を問われる時代に入ったことを象徴する事例として受け止められました。夕張市に隣接する栗山町の議会基本条例の取り組みは、地方分権時代を切り拓くための必要な改革として、全国から注目を浴びることになりました。
議会基本条例は「改革の推進力」 人口減少時代に真価が問われる
議会基本条例を制定することが、地方議会にどのような効果をもたらすのか。早稲田大学マニフェスト研究所は「議会改革度調査2014」で同条例について調査結果を分析しています(1503議会が回答)。その報告では、2014年度「議会基本条例を制定している」と答えたのは約4割でしたが、議会改革度ランキング上位100議会に絞ると制定率は98%に。議会基本条例は「改革の推進力」と評しています。 中尾さんは議会基本条例後の10年を振り返り、「住民の関心がなければ議会は機能しない」と話します。きっかけとなった議会報告会は毎年3月に続けられ、町の恒例行事として住民に認知されるようになりました。栗山町の議会基本条例は改選1年目に見直しの規定を盛り込んでいて、町の実情に合ったものになるよう改正を続けてきました。ことし3月からは毎年見直し作業をするとして、条例改正しています。 「今まで経験したことがない人口減少時代に入り、これから地方議会が試される」と中尾さんは話します。水道料や固定資産税、保育サービスなど、地域住民サービスは値上げや廃止に直面します。そのときに、地方議会はどう動き、住民参加を促すことができるのか、議会基本条例制定の真価が問われるのはこれからです。