SF界の面白すぎる「転生モノ」! 主人公のAI制御「山手線」はストライキを打ち、先輩格の「中央線」が説得する!?(レビュー)
SFの神髄は、突拍子もないアイデアと壮大なスケールにある(私見)。その見本が、8月に文庫オリジナルで出た松崎有理の連作集、『山手線が転生して加速器になりました。』。 全7話の背景は、パンデミックのために人類が都市を放棄した近未来。タイトル出オチみたいな表題作は、無茶な設定ながらよく考えられていて隅々まで面白い。 CERN(欧州原子核研究機関)が誇る世界最大の(実在する)粒子加速器は、巨大なリング状のトンネル内で陽子をぐるぐるぶん回し、光速近くまで加速する。周長は約27km。対する山手線は1周約34km。だったら、無人の東京で無用の長物と化した環状線を環状加速器(リングコライダー)に転用しよう。制御はAIに任せれば人手も不要――と考えたまではよかったが、鉄道時代の運行データを引き継いだAIは、起動するなり「ぼくの名前は山手線。ぐるぐる回るのが仕事です」と宣言。加速器なんかになりたくないとストを打つ。先輩格のもと中央線は世界最長の線形加速器(リニアコライダー)。なぜか江戸っ子口調で山手線の説得を試みるが……。 続編の「山手線が加速器に転生して一年がすぎました。」には宇宙重力波望遠鏡のリサコも登場。彼らの鼎談がなんとも楽しい。 「ひとりぼっちの都会人」は切ない料理小説。リモート料理人が絶海の孤島からロボットを遠隔操作。無人の東京で食材を調達し、かつての客に晩餐をふるまう。
松崎有理は第1回創元SF短編賞を射止めてデビューしたが、同じ回の選考委員特別賞(山田正紀賞)を受賞したのが宮内悠介。その宮内の短編集『超動く家にて』(創元SF文庫)は、『世にも奇妙な物語’23 秋の特別編』でまさかのドラマ化が実現した「トランジスタ技術の圧縮」(実在の雑誌〈トラ技〉から広告ページを抜いて薄くする架空競技の話)はじめ、バカSF系の超くだらない傑作怪作珍作16編を集める。
三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』(ハヤカワ文庫JA)は、「竹取物語」「白雪姫」などお馴染みの話をSF的に語り直す、小ネタ満載の童話集。爆笑です。 [レビュアー]大森望(翻訳家・評論家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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