「二人の人間が何十年も心身ともに 縛り合うのは無理がある?」 『1122』が問う“新しい夫婦像”
ドラマに託した「原作では描けなかったこと」
―― 一子と二也は、最終的に法律婚を解消し、そこから二人の新たな関係性を模索します。 これも選択肢の一つとしてあると思いました。そして漫画では描けなかったことですが、ドラマでは明確に「子どもを持たない」という選択をしています。最終話で一子が整体に行ったときに、片桐はいりさん演じる整体師とお話をするシーンです。これはドラマ化に際して私がお願いしたことでした。子どものことをいろいろと言われたときに「私にはもう必要ないんです」という趣旨の言葉を入れてくださいとお願いしました。濁すのではなく、その時点での判断を一子がきちんと表明できたらいいなと思って。 ――昨今では、夫婦二人が共働きで子どものいない世帯、いわゆる「DINKs世帯」も増加傾向にあります。今の法律婚の制度に違和感を抱いて、あえて事実婚を選択するケースもよく聞きます。 籍も入っていないかもしれないし、子どもも作らないかもしれない。それでも他者とつながることはできるし、それも新たな家族の形になり得るのではないかと思います。一子と二也は家族を増やす方向の拡張ではないですが、既存の制度や価値観を揺るがしながら関係性の考え方を拡張していると言えるのかもしれません。そこを脚本家の今泉かおりさんが汲み取ってくれたことがすごく嬉しかったです。 該当のシーンは片桐はいりさんがとてもすばらしくて。夫婦間の問題に口を出す存在ながら“嫌なおばちゃん”になっていないところも私はとても嬉しかったです。それは脚本と演出、役者さんの力だなと思いました。 ――ほかに映像化されて嬉しかったシーンはありますか? いっぱいありますが、それは原作をうまい具合に汲み取っていただけたおかげだと思います。みなさんが作品に寄り添ってくださった結果だと思うので本当にありがたかったです。 ――映像化でこれは伝わたいと思っていた場面を教えてください。 私が映像化に対してお願いしたのは、漫画では描けなかった、子どもはいなくてもいいという夫婦の選択を明確にすることと、冒頭に日本国憲法第二十四条を映していただくこと。婚姻制度や夫婦の形について、みなさんが考える作品として広がっていくことを願っています。 渡辺ペコ(わたなべ・ぺこ) 漫画家。北海道生まれ。2004年、「YOUNG YOU COLORS」(集英社)にて『透明少女』でデビュー。以後、女性誌を中心に活躍。繊細で鋭い心理描写と絶妙なユーモア、透明感あふれる絵柄で、多くの読者の支持を集める。2009年、『ラウンダバウト』(集英社)が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。2020年に完結した『1122(いいふうふ)』(講談社)は、夫婦とは何かを問いかける話題作として大きな注目を集め、現在累計146万部を超えている。その他の著書に『にこたま』(講談社)、『東京膜』『ボーダー』(集英社)、『変身ものがたり』(秋田書店)、『昨夜のカレー、明日のパン』(原作 木皿泉/幻冬舎)、『おふろどうぞ』(太田出版)などがある。現在、「モーニング・ツー」(講談社)にて『恋じゃねえから』を連載中。
綿貫大介