【社説】シリア政権崩壊 政情安定化へ国際支援を
「21世紀最大の人道危機」をもたらしたシリアのアサド政権が崩壊した。アサド大統領はロシアに亡命した。 シリアを再建し、中東の混迷が深まることのないよう、国際社会は支援の手を差し伸べる必要がある。 シリアでは、アサド氏の父の時代から半世紀以上にわたって独裁が続いた。中東の民主化運動「アラブの春」に触発されて内戦が起きると、アサド政権は反体制デモを徹底的に弾圧した。 国民に拷問を加え、化学兵器を使用した疑惑もある。内戦による死者は40万人以上とされる。国内外に1300万人以上が逃れ、欧州諸国に難民危機をもたらした。 そのアサド政権が反体制派の攻撃を受けて10日余りで幕を引いた。独裁政権が崩壊したのは、最近のウクライナ、中東情勢が影響している。 アサド政権はイランやロシアを後ろ盾としていた。政権軍を後押ししたレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラは、イスラエルとの交戦で疲弊した。ロシアはウクライナ侵攻に兵力をつぎ込み、シリアを支える余力をなくした。 政権崩壊はロシアとイランの中東戦略に痛手となる。 過酷な圧政と内戦に長年苦しめられたシリアの人々にとっては自由を取り戻す好機である。それには政情の安定が欠かせない。 アサド政権を倒した旧反体制派は、来年3月1日までの統治を担う暫定政府を発足させた。統治能力は未知数で楽観できない。 旧反体制派を主導する「シリア解放機構」は国際テロ組織アルカイダ系の組織が前身で、米国や国連はテロ組織に指定している。 シリア北東部には旧反体制派と距離を置くクルド人勢力の支配地域がある。主導権争いで内戦が続く恐れもあり、統治の構図はなお複雑だ。 アラブの春で2011年にカダフィ独裁政権が崩壊したリビアは、武装勢力が群雄割拠して内戦状態に陥った。失敗を繰り返してはならない。 気がかりなのは隣国イスラエルの動きだ。イスラエルは混乱のさなかに、シリアへの空爆を続けている。過去の停戦協定で設けた緩衝地帯を越え、シリア領内で軍事活動を始めた。 停戦協定に反する。中東の緊張を高める身勝手な行為は慎むべきだ。 イスラエルをはじめ、中東に強い影響力を持つ米国のトランプ次期大統領は「シリアは混乱しているが、われわれの戦争ではない。巻き込まれてはいけない」と交流サイト(SNS)に投稿した。傍観せず、中東安定のために働きかけてほしい。 外国の介入がシリア情勢を混乱させたからこそ、再建には国際社会の協力が必要だ。 多数の難民が安心して帰還できるように、生活インフラや医療、教育など幅広い復興支援が欠かせない。日本も積極的に貢献すべきだ。
西日本新聞