羽生の世界最高得点の逆転優勝はなぜ生まれたのか?
フィギュアスケートの世界選手権の男子フリーが1日、フィンランドのヘルシンキで行われ、SPで5位と出遅れていた羽生結弦(22、ANA)が、宣言していた“ノーミスの演技”をやってのけ、自らが持つ世界最高得点を更新する223.20点をマーク、合計321.59で逆転優勝を果たした。3年ぶり2度目の“世界王座”。またSP2位だった宇野昌磨(19、中京大)も、自身初の200点超えとなる214.45点を弾きだして、羽生に2.28点差に迫る計319.31点で2位に入り、初の表彰台に上がった。 鬼気迫る表情で日の丸が揺れる会場を見渡した。 感動のスタンディングオベーションを呼んだノーミスの演技。キス&クライで、世界最高得点となる223.20点が、アナウンスされると涙か汗かわからないくちゃくちゃの顔でガッツポーズをとった。 「この大会に向けて一生懸命練習してきた。みなさんが自信を与えてくれた」 羽生は流暢な英語で場内インタビューに答えた。 冒頭の4回転ループを余裕を持って降りると、続く4回転サルコーも高さをキープして決めた。そして後半に待ち受けている“鬼門”の4回転サルコー+と3回転トウループのコンビネーションジャンプ。今季5試合すべてで失敗している最大の壁だったエレメンツを羽生は見事に決めた見せたのである。 直後に4つめの4回転となる4回転トウループを綺麗に着氷すると、2つのコンビネーションジャンプも危なげなく成功させて、パーフェクトな演技で逆転劇を演出した。 羽生は自信に満ち溢れた表情を浮かべた。 「SPが終わった後になかなか立ち直ることができないぐらい落ち込んだ。チームやファンの方たちが信じてくれたことが、今日の演技に繋がった」 SPでは、スタート時間に遅れる信じられないような減点や、4回転の連続ジャンプの着氷に失敗して、首位のフェルナンデスとは10.66点差をつけられて5位だった。しかし、崖っぷちに追い込まれるほど集中力が増すのが羽生の真骨頂である。 では、なぜ逆転劇は生まれたのか。 元全日本2位で現在は後身の指導を行っている中庭健介氏は、まず最終グループの第1滑走になったことが精神的にプラスに働いたと見る。 「滑走順は後ろになればなるほど得点が出やすい傾向はあります。後半にはSPでの上位選手が演技しますからジャッジの心理状態としては得点を残しているものなんです。そういう意味では、SPに出遅れた羽生選手は不利だったのですが、一番目ということでメンタル的に開き直れたのではないでしょうか。もう他の選手は関係はない。自分がノーミスで演技するだけだ!と高い集中力が生まれたように思います」 フリーでの最終グループの滑走順は、SPの1位から3位、4位から6位の2つのグループに分けられ抽選で決まり、4位から6位の選手が、1番から3番で滑ることになっている。 「クリーンなプログラムを滑ることは非常に難しい。技術的な難しさではなく、精神的なものもある。何度も試合に合わせなければいけない体力の調整も」と、ひとつのミスが、大きな得点差につながる真4回転時代の難しさを認識していた羽生にとってみれば、SP5位で、たまたま第一滑走となったことが、その“精神的なもの”を研ぎ澄ましてくれたのかもしれない。 もうひとつ“鬼門”だった4回転サルコー+3回転トゥループはなぜクリアできたのだろう。