【西村ゆか×内田舞×今西洋介】「放置子」は無視すべき? 小児科医が考える子育ての大変さ
論破王として有名なひろゆきさん(西村博之氏)を夫に持ち、ウェブディレクターや翻訳ライターとしても活躍している西村ゆかさんは、今年2月にエッセイ『転んで起きて 毒親 夫婦 お金 仕事 夢 の答え』を上梓した。そこには、今まで語られることのなかった、ゆかさんの母親の借金、親との確執、摂食障害に悩んでいた過去などが綴られている。 【写真】ひろゆきの妻が夫に「なぜ炎上させるのか」質問したら、予想外すぎる答えが… これまでにも本書からの抜粋記事をいくつか掲載したが、今回は発売イベントとして開催された、親交のある小児精神科医の内田舞さん、新生児科医の今西洋介さんとのYouTube生配信を記事化し、前後編にわけて掲載する“後編”。 ---------- 西村ゆか ウェブディレクター・翻訳ライター。インターキュー株式会社(現GMOインターネット株式会社)、ヤフー株式会社を経て独立。2015年よりフランス在住。2021年に『だんな様はひろゆき』(朝日新聞出版)を上梓。Xアカウント @uekky ---------- ---------- 今西洋介 新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー代表理事。漫画やドラマ『コウノドリ』の取材協力にも参加し、作中の今橋先生のモデルとなった小児科医でふらいと先生としてもおなじみ。2022年に「子育て『これってほんと? 』答えます」(西東社)を上梓。Xアカウント@doctor_nw ---------- ---------- 内田舞 小児精神科医・ハーバード大学医学部准教授・マサチューセッチュ総合病院小児うつ病センター長。うつ病やADHDなど子どもの精神疾患の診療に携わりながら、感情のコントロールに関わる脳機能の研究や、医学生や小児科医の指導を担う。2024年に「まいにちメンタル危機の処方箋」(大和書房)を上梓。Xアカウント@mai_uchida ----------
「放置子」はシャットダウンするしかないのか
西村ゆかさん(以下:西村) 愛情をかけてもらえずにネグレクトを受けている子どもを指す「放置子」という言葉が、以前X(旧Twitter)でバズっていたのですが、先生方は知っていらっしゃいますか? 今西洋介医師(以下:今西)、内田舞医師(以下:内田) はい。 西村 もし、放置子に会ったら、無視をする、シャットダウンするしかないという話を見かけました。私はいろんな家に少しずつお世話になりながら救われてきた側の人間なので、無視をするしかないということに愕然としたんです。 内田 私も気になって一時期Xで「放置子」をフォローして流れをみていたのですが、ネグレクトや虐待を受けている子ども、親が救ってくれない子どもは、親以外の大人しか救うことができないんですよね。だから無視するの一点張りには賛同できません。 でも、どんなサポートをするにしても、自分はここまではサポートできるけれど、これ以上はできない、あるいは他人の子どもは我が家にはここまで入ってきていいけれどこれ以上はダメ、といった境界線という意味を持つ「バウンダリー」を守ることはとても大切です。そのバウンダリーは個人個人の状況によって違ってもいい。そういったバウンダリーなしにはサポートする側の心もむしばまれてしまうことがあります。その中で「自分には放置子はサポートできない」と判断する方がいることも当然です。 しかし、それでも「この子が置かれている環境にはどんな事情があるんだろう」「放置されて危険な目に合っているんではないか」といった好奇心を持つことはやめないでほしいと私は思います。 西村 今、舞(内田)先生のお話を聞いていて、自分ができることをすればいいんだと思って安心しました。 内田 少し話がずれるのですが、子どもに愛情を注ぐことは当たり前で、注ぐべきではあるんですが、実際、育児ってとても大変なことだらけですよね。私は長男が生まれてすぐの頃、もちろん赤ちゃんはかわいいし生まれて良かったという思いはありましたが、周りがSNSで子どもへの溢れんばかりの愛情を表現しているのを見て、「私はこんな気持ちに全然なれない」と思っている時期がありました。 だからと言って、危害を加えたり放置したりしたいとは思わなかったけれど、今までに経験したことのないレベルの寝不足のなか、ミルクやおむつなど、次から次へとこなしていかなければいけない待ったなしのタスクをこなし続け、愛情をかみしめる時間もありませんでした。でもそれが、子どもが育って、子どもの性格が見えるようになったり、交流ができるようになるにつれて、どんどん変わっていきました。産後の過酷な日々や私の産後の回復が落ち着いていったことも関係していたと思います。今は子どもが8歳、7歳、3歳となり、やっと全員に対して溢れる愛情を感じているのですが、私の場合、そこに行きつくまでに少し時間がかかったんですよね。 だから育児をしている中で、ものすごく大変、実質的にはいないほうが楽、と思う気持ちもあっていいということ。そしてそれが子どもとの関係を築いていく過程で、そして生まれたばかりの過酷な状況が落ち着いた後で、変わっていくものだということを長男が生まれた時に知っていたら、もっと気楽に過ごせたんではないかと思うんです。 私は夫と一緒に育児をしていて、気持ちを共有できる人がいますが、とくにシングルマザーは気持ちを共有する人が近くにいない場合もあって、さらにタスクを1人でこなさなくてはならないとなるとすごく疲れてしまうと思います。 西村 舞(内田)先生が長男を育てている時に感じていた困難や葛藤をシェアする相手はいたんですか? 内田 私の場合は夫でした。私は難産だったこともあって、身体的にも回復に長い時間がかかり、痛みや寝不足などでとにかくいっぱいいっぱいで、産後すぐにスペシャルな愛情を感じることはできなかったけど、夫の方は私よりも子どもを可愛いと感じていて、それは私にとって救いでした。あとは気持ちをシェアした過程も大切で、妊娠中から私の様子を見ていてくれたし、4日間の陣痛を経てやっと生まれた出産にもずっと立ち会ってくれていました。だから、私が疲れて心が入らない発言をしても体力的に大変な状況にいても、その過程を見ていてくれたからこそ、責任感を持ってサポートをしてくれたと思います。