ドラマ「新宿野戦病院」がクドカンの原点回帰を予感するワケ・・・「不適切」と「虎に翼」の風穴のさらなる拡大へ
黒澤明映画『どですかでん』(1970年)の原作となった山本周五郎の小説を宮藤官九郎がアレンジ。(明らかに東日本大震災後を思わせる)「仮設住宅」を舞台に、めっぽう個性的な弱者たちがワチャワチャする物語。 そう、宮藤本人がディズニープラスの番組公式サイトで「どうしよう。今回は自信がある。紛れもなく、いちばんやりたかった作品で、これを世に出したら、自分の第二章が始まるような気がしています」と語った『季節のない街』は、「弱者の物語」だったのだ。
この表現が若干、宮藤官九郎の作風には不似合いだとするならば、「世間からはねつけられている弱い立場の連中は、バカや貧乏も多いけれど、実はめちゃくちゃ人間臭くて魅力的なんだ」という、山本周五郎から古典落語にまで通底するメッセージを描いたドラマ。 そう考えると、『不適切にもほどがある!』も、先の第8回に象徴されるように、令和という時代の行き過ぎた圧力に押される「弱者」を描いたドラマだったといえる。 ■「本当にあること」を描く
宮藤官九郎自身は、こう語っている(WEBザテレビジョン/6月26日)。 ――(社会問題をコメディーにするにあたって、気をつけていることはありますか? )それはでもしょうがないですよね。今そういう意見を怖がっていたら、「何にもできなくなっちゃうんだろうな」って思いますから。本当にあることをただ「本当にあるんだよ」って言いたいだけなんですけどね。 そう、期待するのは、「本当にあること」の中で立ち込める弱者の人間臭さを、いきいきと、ぬけぬけと描くドラマだ。結果的に3カ月後、テレビ界、ひいてはカルチャー界が、さらに開き直って、さらに風穴が大きくなっているような――。
そんなドラマの舞台として、新宿歌舞伎町は、最高に不適切……いや、適切だ。 とりあえず『新宿野戦病院』スタッフは、まず世間の声を気にしないことから始めればいい。だってあれこれ騒ぐ連中は、ドラマの視聴者じゃない、実はちっとも見ちゃいないのだから。
スージー鈴木 :評論家