テレビと新聞の関係をどう見る? メディアの「集中排除原則」から考える 曽我部真裕・京都大学大学院教授
キー局と地方局の関係
このような集中排除原則と県域免許の原則があるのにもかかわらず、実際にはキー局のもとに地方局が系列化され、日本全国ほとんど同じ番組が放送されているではないか、と疑問を持つ読者もいるかもしれない。 理屈としては、こうである。キー局と地方局との間の系列関係は親会社・子会社といった強固な資本関係に基づくものではない。もちろん、資本関係や役員人事による結びつきがある場合でも、それは当然、複数局支配の禁止に反しない範囲内で許されている。地方の地元紙も、資本や人事の関係では地方局に関係をもっているが、集中排除原則を守る範囲でのこととされている。 しかし、実態は、キー局を中心とする「系列」関係が、番組供給、広告、取材協力など通じて強固に、多面的に構築されている。日本では、全国紙、キー局、系列地方局は、集中排除原則と県域免許の原則を守りながらも、実態として深く結びついていると言えよう。
何が問題なのか?
そもそも、放送の多元性、多様性、地域性を実現するために、放送内容を直接規制するのではなく、経営面から規制をする集中排除原則や県域免許の原則のアプローチは、表現の自由に直結する放送内容への政府の介入を最小限にするためであった。 そうだとすれば、世論に強い影響を及ぼす全国紙とテレビ局が実態として結びついていることは、特定の少数の者による世論の支配につながり、多様な意見が表明されるべき民主主義の観点からは問題であるとも言える。また、県域免許制度は地域性を確保するためのものであるが、経営難の中、地方局は放送の役割を地域で十分果たしているのだろうか。さらに、全国紙とキー局が結びついていることで、放送のあり方について新聞が十分に批判できず、逆に、規制業種である放送を通じて政府が新聞社に圧力をかけられる、といった問題もある。 他方で、そうした批判は的を射ていないという声もある。広告ではなく受信料で運営され、民放とは違う視点での番組作りが期待されているNHKも合わせればチャンネルは(大都市部では)5つも6つもあるし、何よりも今ではネットもあるのだから、特定のマスメディア(系列)による世論支配というのは考え過ぎではないか、あるいは、優れたコンテンツ制作のためには企業規模も必要ではないかという見方である。 いずれにせよ、今回取り上げた「マスメディア集中排除原則」と「県域免許の原則」は、放送の秩序の根幹であり、例えば最近新たな動きを見せている番組ネット配信の問題にも関わりがあるなど、インターネットユーザーにも実は身近な問題である。そして何よりも、放送は今でも社会にとっての重要な情報源であり、エンターテインメントとしてだけではなく、日本の民主主義の質を左右する面ももっている。実際、メディア企業の合従連衡が盛んな欧米では、民主主義の観点から、放送の多元性・多様性をいかに確保するかということが真剣に議論されている。 テレビや新聞については、物議を醸すそれぞれの番組や記事の是非や、そのビジネス的側面の議論に目が行きがちであるが、このような構造的な問題にも目を向けるべきであろう。 ------------------- 曽我部真裕(そがべ・まさひろ) 専門は憲法、情報法。2001年京都大大学院法学研究科講師、准教授を経て昨年から教授。パリ政治学院などで客員研究員や客員教授を務めた。放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会委員。著書に『反論権と表現の自由』(有斐閣)など。