崖っぷちでこそ強い男 柔道ウルフ・アロン 類い稀な“ギリギリを生き抜く術”
国際ランキング17位以内の崖っぷち
ギリギリの戦いはまだ続く。五輪出場を確実なものとするためには、国際大会でのポイントランキングで17位以内が必須。負けが込んでいたウルフ、国内選考で内定が出ても国際ランキングで五輪出場不可となる可能性が残っていた。パリ本番を逆算すれば出場できる試合は残り少なく、油断できない状態が続いていた。 パリ五輪前ラストの試合として設定した5月中旬のグランドスラムカザフスタン。優勝すればパリへの道は確実なものに。一方で負ければ全てが水泡に帰す可能性も。 綱渡りが続くこの状況に、ウルフの表情が変わっていた。ギラギラとした戦う男のオーラ。大好きなカメラを拒否するほどの熱量が、畳の上で発揮される。 相手の特徴にあわせて戦術を細かく変え、布石を打ちながらペースを握っていく。決勝では再び得意の内股一閃。表彰台の頂点に立ち、パリへの危うい道のりを見事渡り切って見せた。 オオカミは、腹をすかせた極限でこそ、牙を剥く。
「ギリギリは好きじゃない。得意なだけ」
カザフスタンから帰国後、空港からの車中でこの男の真髄が零れた。 ウルフ: 楽しくないですか?負けたら終わりっていう危機感。なんか生きてるって感じしますよね。 めちゃめちゃ緊張したしキツかったけど、やっぱりこういう緊張感って、柔道やってるから味わえるもので、普通に生活してたら多分こういうのって無いと思うんですよね。 ギリギリの状況ですら、ココロのままに。それが崖っぷちで輝く、この男の強さの秘密だ。 パリの大舞台に待つのは、国内外いまだ一人も成し遂げた者がいない、前人未到『男子100㎏級の五輪連覇』。 後顧の憂いも無くなり、来たる大一番に向け研鑽を続けるウルフ・アロン。ここで一つ注釈を。 ギリギリに強いといっても、日頃の稽古で手を抜くタイプでは決してない。むしろ努力家。そう見られるのが恥ずかしくて、カメラの前ではおどけてしまうだけだ。 ウルフ:ギリギリは好きじゃないですよ。得意なだけです。ギリギリにならないと鞭打てないようじゃダメですから。でもそこをモノにできる力強さは自分でも感じていますけど。 目立つのが好きなので。やっぱり『最初に目立つのか、最後に目立つのか』っていうと、どっちかというと最後に目立つのがいいので。パリ五輪もしっかり持っていきます。 その瞬間の自分に正直に。客観的に自分を見つめて、最適な道を進む。 パリ本番に向けても、現時点での前評判はやはり高くはない。 でもだからこそ、ギリギリの戦いを生き抜き頂点に立つ姿も、大いに想像できるというもの。 ギリギリだろうと結果オーライ。最後に目立つための準備は、順調だ。
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