崖っぷちでこそ強い男 柔道ウルフ・アロン 類い稀な“ギリギリを生き抜く術”
想定外だったパリ五輪への3年
東京五輪での栄光の後、2022年1月には、次なるパリ五輪での連覇を早々に公言。 ウルフ: あと2年半って考えれば結構あるんですよ。しっかりと自分が勝つべき試合に向けて調整していくってところは、東京五輪までの4~5年間と何ら変わりはないと思うので。 だが、そう目測したパリ五輪への道のりは、まったく思い通りに進まなかった。 ケガなどもあり実戦復帰までに1年3か月を費やし、復帰後も体重管理を含めた調整が上手くいかず、五輪王者らしからぬ苦戦続き。国際大会の優勝を一度も飾れないまま低空飛行。関係者ですら「ウルフはもう戻ってこられないかもしれない」と気を揉んだほどだ。 調子が上がらないまま迎えた、2023年グランドスラム東京。パリ五輪日本代表最終選考に設定されていたこの大会ですら準々決勝で敗退。敗者復活戦でも負け、表彰台にも届かず。 ウルフのパリ五輪挑戦は夢と消えた…かに見えたが、ライバルたちもウルフに引きずられるように会心の成績を残すことができず。結果、大会後の内定選手発表の記者会見で、全日本首脳陣が下した判断はこうだった。 鈴木桂治男子監督: 100㎏級に関しては、今回は選考せずまた来年の大会でさらに選考を行っていきたいと思います。 パリ五輪日本代表選考は、まさかの延長戦に。ウルフとしては、かろうじて首の皮一枚つながった状況。越年が決定した100㎏級パリ五輪日本代表の先延ばしに、ウルフも気持ちをつなぎとめる。 ウルフ: まだチャンスがあるというところに、しっかりしがみついていきたいです。 五輪イヤー突入後の2月。負ければいよいよ終戦となるグランドスラムパリ。五輪開催国での国際大会は、実質国内で2番手候補の位置づけ。 だが、まさにギリギリ崖っぷちの状況でウルフ・アロンがようやく目覚める。 ここまでが嘘のように危なげない試合展開で勝ち上がり、決勝は元世界王者の長身選手に得意の内股一撃。 東京五輪以来となる国際大会優勝を成し遂げ、ライバルたちを逆転。薄氷を踏む戦いを制し、パリ五輪日本代表内定をひとまず獲得した。