Microsoft 365 CopilotがNPU対応でローカル処理に!CrowdStrike騒動に似た不具合の予防策も発表
Microsoftは11月19日(米国時間)から、米国イリノイ州シカゴ市において同社の年次イベント「Microsoft Ignite」を開催する。それに先だって報道発表が行なわれ、Igniteで発表される内容が明らかにされた。 【画像】Microsoft 365 Copilotが動作しているWindowsのCopilotアプリケーション(写真提供:Microsoft) その発表内容は、同社のクラウドサービス事業であるAzureで実現される生成AIソリューションから、クライアントOS向けのWindowsまで幅広い内容になっているが、本記事では特にWindows関連の発表を取り上げていく。 ■ Microsoft 365 CopilotがNPUを利用したローカル処理に対応予定 Microsoftは5月に開催された「Build 2024」などにおいて、同社の次世代PC向けの普及プログラムとなる「Copilot+ PC」の構想を発表し、6月18日からはグローバルにCopilot+ PCに対応した販売が開始されている。 最大の特徴は40TOPS以上の性能を備えるNPUの搭載が必須となっていることで、QualcommのSnapdragon XシリーズAMDのRyzen AI 300シリーズ(Strix Point)、IntelのCore Ultra 200Vシリーズ(Lunar Lake)などが対応している。 今回、一般法人向けMicrosoft 365(BusinessないしはEnterprise)の生成AI拡張機能となる「Microsoft 365 Copilot」をNPUに対応させ、ローカルでAI処理させる計画を明らかにした。 現状、Copilot+ PCにMicrosoft 365 Copilotのライセンスを適用しても、AIはすべてクラウドベースで演算が行なわれている。これは、Microsoft 365 Copilotに対応したMicrosoft 365アプリケーション(いわゆるオフィスアプリケーション)がクラウドのAI処理だけに対応しているためだ。今回NPU対応が発表されたことで、Microsoft 365 CopilotユーザーがNPUを活用できる。 今後数カ月の間に、OutlookやWordのようなローカルアプリケーションで、ローカルのNPUを利用して文字入力の補助機能を提供していく。 Microsoft 365 CopilotのNPU対応は、企業が従業員に配布するノートPCなどにNPUを搭載した製品(いわゆるAI PC)を選ぶモチベーションの「大本命」と考えられており、今後NPUを利用するMicrosoft 365 Copilotのアプリケーションが増えていくと、企業がCopilot+ PCを選ぶことにつながっていく可能性があり、注目すべき動きと言える。 ■ Windows Copilot Runtimeを利用して独自のAI機能を実装したISV向けのAPIが1月に公開 5月のCopilot+ PCの発表時、アプリケーションがNPUを利用するためのランタイムとして「Windows Copilot Runtime(WCR)」を発表している。簡単に言えば、ソフトウェアがNPUを利用し、AI処理をローカルデバイス上で行なうためのミドルウェアとなる。MicrosoftがCopilot+ PCのインボックスソフトウェアとして提供しているRecallやClick to Do、Live Captionsなどの機能もWCRを経由してNPU処理している。 MicrosoftはWCRの発表時に、ISVもWCRを利用可能になる予定だと明らかにしたが、今回のIgniteでは具体的にどのように利用できるかを発表した。それによれば、1月に提供される計画の「Windows App SDK 1.7 Experimental 2 release」で以下の新しいAPIが提供される。 ◯Image super resolution 画像の解像度を、AIによりアップスケーリングするためのAPI、利用すると低い解像度の画像で、シャープさを増すなどの処理を加えてアップスケーリング可能。 ◯Image segmentation 画像のセグメンテーション(人物、物体、背景などを分類すること)を行なえる。画像編集ツールなどが、静止画や動画で背景と人物、物体などを分離し、必要のない人物や物体を消したり、背景を差し替えたりという編集を容易に行なえる。 ◯Object erase いわゆる消しゴムツールを実現するためのAPI、静止画から望まない物体を消すために使うツール。消した物体の後は周囲から合成して自然な画像を生成できる。 ◯Image description 画像のイメージからテキストの説明を生成するAPI。メタデータなどを自動で生成する場合に利用できる。 Microsoftによれば、「Adobe Premiere Pro」、「LiquidText」、「Dot Vista」、「Promeo by Cyberlink」、「McAfee’s Deepfake Detector」、「Capture One」、「Affinity Photo」などのISVアプリケーションがこのWCRのAPIを利用する計画だ。 ■ 7月のCrowdStrike騒動に対するMicrosoftの答え「Windows Resiliency Initiative」が発表される 続いてはWindowsをより安全に安定して実行させるための取り組み「Windows Resiliency Initiative」だ。この背景にあるのは、今年(2024年)の7月に起きた、CrowdStrikeのアップデートの問題により世界中でミッションクリティカルな業務に利用していたWindows PCが起動しなくなったという、いわゆるCrowdStrike騒動と呼ばれる社会問題だ。これに対するMicrosoft側の再発防止策がWindows Resiliency Initiativeになる。 CrowdStrikeに限らず、ISVが提供するセキュリティ関連のソフトウェアの多くは、カーネルモードと呼ばれるOSのカーネル部分が実行しているメモリ空間で実行される。OSが起動する間にもそれらが起動するため、実行ファイルに問題があると、OSが正常に起動しなくなる。 いわばWindowsがプログラマブルなOSであり、柔軟性があることの裏返しなのだが、さりとてCrowdStrike問題に端を発したようなことは、別にCrowdStrikeに限ったことではなく、カーネルモードで実行するようなセキュリティソフトウェア全体で同じ問題が起こりえることは容易に想像できる。 そこで、MicrosoftがWindows Resiliency Initiativeの取り組みとして2つのことを開始する。1つはMicrosoft Virus Initiative(MVI)と呼ばれる、Microsoftとセキュリティソフトウェアを提供するISVとの共同の取り組みの一環。これはマルウェア検出ソフトをカーネルモード外で動作させるようにするものだ。 仮にマルウェア検出ソフトがクラッシュして落ちても、落ちるのはそのマルウェア検出ソフトが動作しているメモリ空間だけで、OSカーネルはそのまま動作し続けられる。また、MVIのパートナー企業は、Windows Updateを経由してドライバの配布などを行なう場合、追加のセキュリティテストや互換性テストを受ける必要がある。これらのセキュリティ関連の新機能は、来年(2025年)の7月以降にMVIパートナー企業から提供される予定だ。 もう1つの「Quick Machine Recovery」は、IT管理者が物理的にアクセスできない起動できないPCに対しても、問題を解決するWindows Updateのパッチを当てたりすることが可能になる技術。どのような形でブートできないマシンにアクセスするのかなどの詳細は明らかになっていないが、Windows Insiders Programで来年初頭から提供開始される計画だ。 ■ Meta Quest 3、Meta Quest 3SをWindowsのモニターに Microsoft自身は、自社デバイスとなるHololens 2の生産終了を発表するなどしており、同社がMR(Mixed Reality)と呼んでいる複合現実からはデバイスレベルでは後退したような印象を持たれている。 しかし、WindowsをMRのデバイスとして活用するという動きは続けられており、今回はMetaが提供する「Meta Quest 3」、「Meta Quest 3S」という2つのMRヘッドセットがローカルのWindows PCおよびWindows 365(クラウド型のWindows)で、一種の外部モニターとして利用できるようになると発表された。Microsoftによれば、わずか数秒でWindowsデバイスに接続できるように、高品質で大型のマルチモニターとして利用することが可能になるという。 現時点ではどのような形でWindows PCに接続できるようになるのか(有線なのか無線なのかなど)は現時点では明らかにされていないが、こちらの機能は12月からパブリックプレビューが開始される計画だ。 また、Microsoftは同社のWindows 365(クラウド型のWindows)向けのシンクライアントデバイス「Windows 365 Link」を349ドルで、選択された市場において2025年の4月から販売を開始すると明らかにしている。現時点ではMicrosoftブランド製品だけとなるが、今後OEMメーカー向けに開放する計画もあり、同社のOEMメーカーなどに2025年中に拡張していく計画であることも同時に明らかにされている。
PC Watch,笠原 一輝