【西武投手王国への道】同級生捕手にうまく導かれながら初の2ケタ勝利を目指す隅田知一郎
試合中の感覚を重視した同級生バッテリー
なぜ、いつもと違う投球になったのか。リードした古賀が明かす。 「隅田も真っすぐは悪かったわけではないんですけど。その中で……勝手にそうなった。試合中にはいろんなことがあるじゃないですか。状況とかを考えてやった結果、そういう数字になったというところです。最初から真っすぐを減らそうという話をしていたわけじゃなくて……」 初回はカーブ、スプリットで組み立ててストレートは1球のみ。要所で速い球を効果的に使うために隠しているのかと思ったが、そうした配球は4回二死の六番・宗佑磨だけだった。「魔球」と言われるチェンジアップと大きな弧を描くカーブを普段より多めに使い、スプリットを大幅に増やして凡打の山を築いた。 データ全盛の昨今、試合前から各打者の傾向は洗い出される。それを土台に配球を決めるのが定石だが、この日の西武バッテリーは試合中の感覚を重視した。試合後、古賀は手応えを語っている。 「結果的にゼロで抑えていたので、こういうのもありなんじゃないかなって。もちろん隅田のピッチングスタイルもあると思うけど、状況に応じた投球をしていかないと。配球に正解はないと思うし、その日の調子と相手打線の調子と状況を考えた上でサインを出します。それで今日は真っすぐが約20%で結果的に抑えられた。僕は隅田と同期で、彼にも僕にもいい勉強になったと思います」 隅田の持ち球は平均140キロ台中盤のストレート、130キロ台のスプリット、120キロ台のチェンジアップ、110キロ台のカーブが主で、いずれもカウント球にも勝負球にもなる。つまり、コンビネーションを最大限生かすのが捕手の頭脳だ。 今季の西武で今井とともに安定した投球を続ける隅田だが、明らかな課題もある。左打者に被打率.289で、同.194の右打者と比べて大きく打たれているのだ。 この日のオリックスはスタメンに左打者を6人並べ、当然ポイントになった。古賀はどう考えたのか。 「統計的に真っすぐやカーブの被打率など、各球種でどれくらい抑えているか。相手バッターの左右別でもデータが全部出ています。隅田は左バッターに対して真っすぐがアウトコースに投げ切れず、シュート回転して真ん中に入ってくることもありました。そういうのも頭に入れた上での今日の試合でした」 データは過去の傾向だ。それを踏まえてどう攻めていくのか。オリックス打線にスプリットをうまく使った隅田と古賀の同級生バッテリーは見事な勝利を収めた。 1週間後、ZOZOマリンでの8月28日のロッテ戦では5人の左打者をスタメン出場させた相手に対し、“いつもの隅田”に戻った。以下が投球割合だ。 〇ストレート 42.6% 〇カーブ 23.4% 〇チェンジアップ 22.3% 〇スプリット 7.4% 〇スライダー 4.3% この日はストレートを軸に7回被安打4で2失点。隅田に勝ち負けはつかなかったものの、リーグ6位タイとなる今季14度目のクオリティースタートを記録した。左打者に逆球のストレートもあったが、全体的にうまく組み立てたと言えるだろう。 多彩な勝負球と制球力を持つから調子や状況によって組み立てを変えられる。それが次の登板にも生きてくる。左打者へのストレートを磨けば、さらに飛躍できるはずだ。 自身初の2ケタ勝利まで残り2勝。同級生の古賀にうまく導かれながら大きな目標達成を目指していく。
週刊ベースボール