教える側になるということ~太極拳と元気リーダー~
認知症人口は、2025年には700万人になると言われている(厚労省「認知症高齢者の将来推計について」より、認知症施策 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)。この連載では、認知症を回避するためにできることはあるのか、また、認知症対策として今、どのようなことが行われているのかなどについて、様々な現場に足を運びながら見ていく。なお、筆者の立場は、「離れて住む実家の母の認知症を防ぐこと」。よって、対策を見ていく際には、「どうすれば自分以外の人にその対策を行ってもらうことができるのか」も合わせて考えていきたい。
人の手を借りる力
前回、前々回と、東京・世田谷にあるコーシャハイム千歳烏山(以下、コーシャハイム)を拠点に行われている健康体操をご紹介した。 体操は、月に一回、シニアを中心として生まれたグループ「ななつのこde運動し隊(以下、運動し隊)」が行っているものだが、運営には非営利団体「実家なんとかし隊」や、「公益財団法人世田谷区保健センター(以下、保健センター)」や、「あんしんすこやかセンター(世田谷区の地域包括支援センターのこと)」、さらに「世田谷区社会福祉協議会」、「JKK東京」「一般社団法人ななつのこ」なども力を貸しているとわかった。 こうしたたくさんの団体・組織からの協力が得られている結果、「運動し隊」の体操はスムーズに継続できているという印象を私は受けたのだが、それができたのは、「実家なんとかし隊」代表の柴﨑さんの采配力によるところが大きいとも感じられた。つまり、さまざまな組織の支援について知っている人が手伝ったので、運動し隊は良い形で運営できる力を結束させることができたのではないかと思ったのだ。 そう考えると、高齢者グループが自主的に活動を行う場合、その下の世代がいかに関わるかというのが肝になるとも感じた。その場合、支援について知っているのは大切な一つだろうが、たとえ知らなくても、「労を取って調べる」「時間を割いて協力する」などはできるのではないかと思った。 もうひとつ、柴﨑さんの動き方を見ていて感心させられたことがあった。それは、「人の手をちゃんと借りている」ということだ。 たとえば、初参加の時から私もスタッフのような動きをさせていただいたのだが、そのおかげで、会での居心地は良かった。「ここにいる理由」や「いていい理由」が見つかった気がしたから。しかも2回目の参加以降は始めから「手伝いに来てくれた人」と紹介され、開始早々、記録用の撮影を頼まれたりもした。 他の参加者たちを見ていても、初参加の立場であっても、片付けを率先して行うようにいざなわれたり、雰囲気的にみんなで一緒に会場の掃除を行うようになっていて、見知らぬ同士でも自然に声を掛け合えたり、ほっとした顔になれたりが、スムーズにできていたように感じた。 運動を目的とする集まりに、「運動がしたい」という単純な理由だけで参加するのも、もちろんいいだろう。しかし「役割があることで、参加しやすくなる」人がいるというのも、また事実。役割があることで、自分の立場がお客さんではなく、会を運営している一人だという自覚が無意識にせよ刷り込まれるし、それがあると、「ここは自分の居場所だ」と実感できるのではないかと思ったのだ。そしてそうした感情こそが、再び会に足を運ぶ原動力につながるのだろうなと私には感じられた。