「中央銀行など廃止しろ」"アルゼンチンのトランプ"ハビエル・ミレイ新大統領は自国を偉大にできるか
「自由万歳、クソッタレ!」 11月19日に行われたアルゼンチン大統領選挙決選投票で、ボサボサの髪とワイルドなもみあげがトレードマークの″経済学者″は、国民を前にこう絶叫した。 【これが人気の秘訣…?】ハビエル・ミレイ新大統領 公衆の面前でガールフレンドと"キス"でパフォーマンス 男の名は、ハビエル・ミレイ(53)。今年8月まで世論調査で第3位だった彼が、逆転勝利でアルゼンチンの次期大統領の座を掴みとった。 「『無政府資本主義者』を自称し、その過激な言動から『アルゼンチンのトランプ』と呼ばれる人物です。’21年に下院議員になったばかりで、自身が率いる議員グループ『自由前進』を立ち上げたのも2年前。 それにもかかわらず、アルゼンチン国内24州のうち21州で勝利を収めることができたのは、『特権を持った政治家が、庶民の富を盗んでいる』という彼の指摘に、多くの国民が共感したからでしょう。国内に根付いた『ペロン主義』に限界が来たのです」(経済評論家の朝香豊氏) ペロン主義とは、’46年に大統領に就任したフアン・ペロン氏が掲げた弱者救済・反グローバリズム路線を踏襲する考え方のこと。アルゼンチン政府はこれまで、労働組合の保護や外国企業の国有化、貿易の国家統制、公共料金や生活必需品への補助金支給などを積極的に行い、労働者層からの支持を集めていた。 「現政府下では、国家財政の4割以上を社会保障に、1割が企業への補助金に費やされている。にもかかわらず、貧困ライン以下の生活をしている人々が40%を超えているのです。現状に不満を持った国民がミレイ氏の過激な主張に賛同するのも頷けます」(朝香氏) 朝香氏の言うように、ミレイ氏は大統領選の間、一貫して″過激発言″を繰り返してきた。年率140%という異常なインフレ状態を解決するため、「アルゼンチン・ペソを刷り続けるからインフレが進む。ペソを廃止して国内通貨を全て米ドルにすればよい」と主張。出演したテレビ番組では「中央銀行など廃止してしまえ!」と、アルゼンチン中央銀行の模型を文字通りハンマーで破壊するパフォーマンスまで行った。その矛先は外交にも向けられている。 「現政権は左派で親中路線でしたが、ドナルド・トランプ氏(77)を信奉していると言って憚(はばか)らないミレイ氏は完全な親米路線。大統領選勝利が確定した後、真っ先に渡米。11月29日に帰国したばかりです」(現地で物流会社を営むアルゼンチン在住歴30年の田中徹也氏) アルゼンチンの経済政策を根本からひっくり返し、「中国と仲良くするのは暗殺者と手を組むのと同じ!」と脱中国を宣言。大統領就任後はより苛烈な行動に出て、スクラップアンドビルドを実現してくれる。そう思われていたが――。