【大川原化工機事件】女性検事は「起訴できない。不安になってきた。大丈夫か」 裁判所に提出された生々しすぎる「経産省メモ」の中身
苛立つ検事
控訴理由書には起訴を決めた塚部検事が登場する。前任の横幕孝介検事は立件には慎重だった。 19年7月5日、赴任直後の塚部検事は警視庁公安部に「日本の他の噴霧乾燥機メーカーは(註・経産省の)許可を取っているのか?」と質問した。公安部が「ナンバー2の会社は取っている。それ以外は業界がいい加減で許可を取っていない」と答える。「ナンバー2」とは藤崎電機(現・GF=徳島県阿南市)のことだ。 さらに「経産省の職員と被疑会社のやり取りで、経産省は機械が該当となると把握していた訳なのに、申請が上がってこないことをおかしいと思わなかったのか、そこも気になる」と問うと、警視庁公安部は「そこは経産省の体質と言わざるを得ない」としている。 同検事はさらに「業界の常識でそう思っていると言っているが、他にも(註・該当製品に)当たらないと言っている人たちがいるとまずい。解釈自体が、規定がおかしいという前提であれば起訴できない。業界の一般的なとらえ方も被疑会社よりであれば起訴できない。彼らの言い分も一理あるということだと起訴できない」「経産省が解釈を出すのが遅すぎて犯行当時、判断基準がなかったというのが通るのであれば起訴できない。そういう整理でやってきたと思っていた。そうでないと不安になってきた。大丈夫か。私が知らないことがあるとすれば問題だ」としている。 「そういう整理」とは「経産省が明確な法令解釈で」という意味である。彼女は何度も「起訴できない」の言葉を繰り返し、起訴に不安を感じていることを警視庁公安部に伝えている。 さらに、塚部検事は、19年3月24日に相談に訪れた警視庁公安部の警部補から「他のメーカーは非該当で判断していますけど、それでいいんですか」「法令が曖昧で、他のメーカーは非該当と判断しています」と報告された。すると同検事は「そんな話、聞いてないよ」「公判が持たない」「他のそんな話、今までしてませんでしたよね」と怒り出した。公安部に対して「話が違うではないか」と苛立ってきたのだ。それなら、不安を解消する目的であっても、再実験などの追加捜査をすべきだったのではないか。 21年7月21日、東京地検は公判部の小長光健史副部長が駒形和希検事との打ち合わせで「初期の捜査メモを読むと、うがった見方をすると『意図的に、立件方向に捻じ曲げた』という解釈を裁判官にされるリスクがある」と述べている。さらに「捜査メモの開示請求に対し、限定開示(一部黒塗り)したところで、その可否について判断するため、裁判官は必ず読む。そうなれば裁判官の心証が悪くなる」と発言した。 その直後に起訴の取り消しが決定したのだ。「まさかの起訴取り消しの理由が、捜査メモの開示命令にあった」という高田弁護士の当時の見方が裏付けられている。