『リトル・ワンダーズ』ウェストン・ラズーリ監督 究極のキッズ・アドベンチャーを作りたい【Director’s Interview Vol.447】
魔女のモデルはエボシ御前とサラ・コナー
Q:本作は16mmで撮影されていますが、フィルムにこだわった理由を教えてください。 ラズーリ:僕の世界観に信憑性を持たせ、観客に踏み込んでもらうためには、フィルムで撮ることは必須でした。フィルムは料理で言うバターのようなもの。バターを使うことで、料理が一つにまとまるし、素材が持つポテンシャルを最大限に引き出せる。バターのおかげで料理を完成させることが出来るんです。 Q:ゲームのようなSEも楽しく、アイテムをゲットしてまわる様子はRPGのようでもありました。ゲームへの思いもかなり盛り込まれていますね。 ラズーリ:若い頃はゲーマーでした。監督になった今は、映画作り自体がビデオゲームのようなものです。映画作りもいろんなクエストをクリアしていくことですから。 Q:今回のラスボスはお母さんの魔女ですが、大人から見てもかなり怖かったのです(笑)。彼女のキャラクターはどうやって作られたのでしょうか。 ラズーリ:僕も怖かったです(笑)。怖がってくれてありがとう。もともとファンタジーの世界には良い魔女や悪い魔女がいますよね。今回は『もののけ姫』(97)のエボシ御前と『ターミネーター2』(92)のサラ・コナーをミックスして、そこにチャールズ・マンソンの雰囲気を入れて作りました。 Q:あの魔女からは、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(18)という映画を思い出す部分もありました。 ラズーリ:まさにそう! これは子供が観られる『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』だと言った人もいましたよ(笑)。この魔女はいろんな意味で怖いんです。まず存在自体が怖くて、銃も持っているし、人を操ることが出来て娘も心理的に操っている。かなり邪悪なキャラクターだと思います。
自然と受けている日本の影響
Q:編集・衣装・タイトルデザインなどは、監督が作られたANAXIAというユニットが担当されていますが、ユニット内ではどのような役割分担で、どれぐらいの人数でやっているのでしょうか。 ラズーリ:ANAXIAは僕一人なんです(笑)。だから一人で全部やっています。クレジットに自分の名前がたくさん出るのは、ちょっと素人っぽくて単純にダサいなと(笑)。それでANAXIAでクレジットしました。今はANAXIAとして制作会社的な動きをしていますが、今後はアートブックを出したり服のプロデュースなんかもしたいですね。 Q:アリスが来ているTシャツも監督がデザインされたとか。 ラズーリ:このTシャツに描いたイラストは日本の60年代アニメのキャラという設定です。劇中の子供たちは知らず知らずのうちに日本に影響を受けていて、日本のものが大好き。ゲームもOTOMOだし、ダートバイクもAKIZUKI(『隠し砦の三悪人』の秋月家が由来)だし、アニメにも夢中になっている。実際、今のアメリカの子供たちも同じで、気付かないうちに日本のものに夢中になっています。それを反映しました。アメリカではKawasakiもSUZUKIも普通に走っているし、SONYもあちこちで見ます。子供たちはそれがどの国から来たものかなんて考えないから、大人になるにつれてそれらが日本製だったのだと気づいていくんです。 Q:監督自身はいつ頃から日本のアニメや文化が好きになったのですか。 ラズーリ:父親が「マッハGoGoGo」のファンで、それを一緒に観ていたのがきっかけです。そのときは日本のアニメだとは知りませんでした。日本のアニメだと認識して好きになったのは、「ポケットモンスター」や「ドラゴンボール」くらいからですね。 Q:ダンスシーンで「Baby Come Back」が流れるのがサイコーでしたが、どのように選曲されたのでしょうか。 ラズーリ:実は、この曲のことは知らなかったんです(笑)。別の曲を選んで編集したのですが、ちょっと飽きてしまった。他に何かいい曲はないかとSpotifyを流しながら編集していたら、ちょうどスローモーションのシーンのときに「Baby come Back」が流れてきた。「なにこれ!?ピッタリだ!」と思って使うことにしました。そのあと友達に「この曲知ってる?」と聞いたら、「当たり前じゃん!」と言われましたね(笑)。 Q:影響を受けた好きな映画や監督を教えてください。 ラズーリ:宮崎駿、黒澤明、鈴木清順、ケン・ローチ、フランソワ・トリュフォーですね。今回はトリュフォー的な雰囲気を意識しました。また、スピルバーグの映画を観て育ったので、そこも自然と影響を受けていますね。映画監督ではありませんが、初期の鳥山明も大好きです! 監督/脚本/製作:ウェストン・ラズーリ 1990年10月生まれ。カリフォルニア美術大学でグラフィックデザイン、ファッションデザイン等を学んだ後、それらのスキルを駆使して映画製作も手掛ける。2015年には映画やMVの製作からデザイン全般まで、幅広い創作活動を行うアトリエ「ANAXIA」を設立し、『Jolly Boy Friday(原題)』(16)、『ANAXIA(原題)』(18)といった短編映画をコンスタントに制作した。長編監督デビューとなった本作では脚本・監督・製作・出演までを務め、そのマルチな才能を遺憾なく発揮。第76回カンヌ国際映画祭では監督週間上映に加え、優れた新人監督に贈られるカメラ・ドール部門でのノミネートを果たした。 取材・文:香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成 『リトル・ワンダーズ』 10月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開 配給:クロックワークス © RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC
香田史生
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