着実な成長を遂げるメタバース産業との交錯 有識者が予測する“2024年のバーチャルシーン”
バーチャルYouTuber(VTuber)が当たり前の存在となってはや数年が経つ。かつて「画面の向こう側の遠い存在」だった彼ら/彼女らは、我々の生活に浸透し、生活圏で目にすることも増えた。こうした中で、「バーチャルな存在」という在り方もまた変容を続けている。 【画像】『cluster』で開催されたクリスマスイベントの様子(プレスリリースより) 今回、リアルサウンドテックでは3人の有識者ーー草野虹氏、たまごまご氏、浅田カズラ氏が語り合う座談会を企画。前編ではおもにVTuberを中心とした「バーチャルタレント業界」について振り返った。後編ではソーシャルVRをはじめとするXR業界についても話をしてもらいながら、来年以降のバーチャルシーンにおける思いも語ってもらった。(編集部) ■草野虹 福島、いわき、ロックの育ち。KAI-YOU.net、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。音楽プレイリストメディアPlutoのプレイリストセレクターとしても活動中 ■浅田カズラ xRとVTuberを追いかけ続けるバーチャルライター。xR/VTuber関連のニュースをデイリーでまとめる業界情報ブログ「ぶいぶいているろぐ」を運営。 ■たまごまご マンガ、VTuber、VRの話題など書いているオタク・サブカル系ライター。活動媒体はMoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなど。女の子が殴りあうゲームが好きです。 ーーここまで(前編)はおもに「バーチャルタレント」について振り返っていただきました。ここからは「バーチャルな在り方」の一つとして、ソーシャルVRなどXR業界についても振り返っていきたいと思います。 くさの:事前に座談会で話したいトピックスを集めた時に、浅田さんが「『VRChat』の普及が加速」を挙げてくださっていましたが、実際のところ加速しているんでしょうか? いま4人いるうちの僕だけが『VRChat』をやっていなくて、外から観測している状態なんです。実際に中に入って体感できているわけではないので、データがあることなのか、体感としての話なのか、どちらなんだろうというのが気になって。 たまごまご:いわゆる「メタバース」のプラットフォームがいまはすごく増えていてそれらをプレイしてる人数、総人口で考えるのなら、間違いなく加速してます。特に規模が大きいのは『Roblox』ですね。小さい子や若者たちは、僕ら大人の知らないところでメタバースをメタバースだと思わずに遊んでいます。 くさの:それは普通にパソコンでXRデバイスを使って遊んでるということですか? 浅田:Robloxはスマホで遊んでいる子が多いですね。 ーー『Roblox』が公開しているデータをみても、かなり好調ですよね。そのほかのプラットフォーム、たとえばよりソーシャルVRに近い『cluster』などはいかがでしょう? たまごまご:もともと『cluster』は母数が大きくなかったんですけど、こちらもユーザーが増えましたね。さきほどの『Roblox』の影響もあってか、スマホで気軽にイベントに参加することが子供たちにとってはすごく自然な行動になったのも大きいかもしれません。ただ人数が増えたことで、いわゆる「荒らし」行為を目にすることも多くなりましたね。 くさの:メタバースの荒らし行為って、どういうものなんでしょう? たまごまご:大きな声を出すとか、巨大なアバターを使ってイベントの邪魔をするとか、あとは地面に潜って女の子のスカートの中を覗くハラスメント行為とか、いろいろありますよ。字面だけみるとしょうもない嫌がらせに見えるかもしれませんが、実際にメタバースの中で遭遇すると本当にいやなんですよね。なので、『cluster』のイベントにはそういったユーザーに対処するための「警備係」がついてることが多いです。 浅田:あれ、本当にいやですよね。『cluster』って、イベント(ワールド)のキャパシティが最大500人と多いので、相対的に暴れん坊を引き寄せる確率がどうしても高まってしまうんですよね ーー『VRChat』が80人であることを考えると、かなり多いですよね。なんなら、リアルでも500人のお客さんを集めるのって相当ですよ。 くさの:500人って、ライブハウスの平均かちょっと多いくらいですからね。 たまごまご:『cluster』は過去に輝夜月さんのライブをおこなったときからすでにかなりの人数が入る仕組みを作って運用していたので、その時点で絶対にライブイベント売りでいくという狙いがあったんでしょうね。YouTubeみたいに自分が開催したイベントを記録として残せるのも魅力ですし、アクセサリーやグッズを買ったらその場で付けられたりするのも『cluster』ならではの魅力だと思います。 ーー過去に観た中でおもしろかったイベントというとどんなものがありますか? たまごまご:VRアイドルの方が握手会をやっていたときは面白かったですね。ファンの人が列を作って、アイドルの人が本当にアイドルの握手会みたいに握手していて。しかも面白かったのが、その横にちゃんと“剥がし”(※)の男性がいるんですよね。どこまでが本気で、どこからがロールプレイなのかわからなかったんですが、体験として面白いなと思って見てました。 (※剥がし……握手会などで時間が長くなりすぎないように参加者を誘導するスタッフ) 浅田:たしかに、バーチャルな場所で“あえて不便なことをする”のが、体験価値を高めるうえで意外と大事なんじゃないかというのは思います。先日KAMITSUBAKI STUDIOが開催したCIELのVRライブでも、会場に行くまでの道のりがあって、スタジオ前に到着しても時間にならないとゲートが開かなくて、それまで待機列に並ぶ……みたいなことをしていて。 くさの:まったくリアルのライブと同じですね(笑)。 浅田:そうなんです。本当にリアルのライブと同じ光景があって。「これ、みんな並ぶんだろうか?」と思っていたら、意外にもほとんどの来場者が律儀に並んでるんですよ。「まだかな」「楽しみだね」なんて話をしながら、開場の時間を待っていて。ライブ前の独特なあの時間って、VRでも体験できるんだと感心しましたね。 たまごまご:少し脱線させてしまったので話を戻しますと「では『VRChat』の普及はどうだったのか?」というと、これは僕の感覚なんですけれども、やはり『VRChat』を十全に楽しむには「Unityを扱えたほうがいい」という壁があるので爆発的には増えていない印象です。ただ、着実にユーザーは増えていて、今までハマっていなかった層ががっちりハマっているな、というのは感じています。 浅田:そうですね。あと、今年はエンドユーザーというよりかはビジネス的な動きが活発だった感触はあります。『VRChat』を運営している企業とのビジネス的なパートナー契約を結んだ企業が、今年はぱっと思いつくだけで15社以上ある。 そもそも有償イベントを開催するうえではパートナー契約が必須条件になるということもありますが、『VRChat』内のトップメニューに自分たちのやっているイベントを掲載してもらって導線にする、といったことができるようになるんですよね。 ーー先日から『VRChat』に貨幣制度も導入されましたね。 浅田:そう、ちゃんと経済を作ろうとしてる動きが明確に増えているし、そういった人たちをサポートしようとする企業や法人の参入も増えています。たとえば法律事務所とか行政書士とか、つい先日は公認会計士の事務所もパートナー契約をしていましたね。 くさの:VR空間に法律事務所ですか。 たまごまご:経済を作るうえでは最も重要になる存在かもしれないですね。VR空間でどうやってお金を稼ぐのかという以前に、法的にやり取りができるのか、海外の企業とのやり取りはどうするのかといった事務的な面もありますし、著作権の面でも国によって常識や業界の慣習が少し違う場合もありますから。それを最初に一手打ってくれるのはとてもありがたいです。 浅田:そうですね。あと、そもそもその事業をやろうとしている企業が別の企業を呼んできて、そこで手を組んだりすることで事業が成立しているのも特徴的ですね。参入企業が増えることによって、じんわりと社会的な注目度が上がった年なんじゃないかなと思います。 たまごまご:いま『VRChat』でそういう企業がパートナーシップを組んだり、『Vket』で企業出店しても、即座にマネタイズできるという話ではないじゃないですか。それでも参入企業が増えていて、かつ本気でいいものを作ろうとしている熱量みたいなものは、ユーザー側にも伝わってきますよね。 コンテンツの中身としても、『VRChat』にいるユーザーのことをしっかりリサーチして、こういうものにならお金を払ってくれるだろう、という見通しを立てているんだろうな、というのも感じます。バズワード的にもてはやされた時期もありましたが、いまの企業は現時点の流行り廃りで入ってない、きちんとした投資をできている企業が多いですよね。 浅田:じつは『VRChat』って、注目を浴びるまでの期間が長かったじゃないですか。でも、そのときから続けている人たちがいまも『VRChat』に結構残って、いまだに新しいものを産み出しているんですよね。そこに魅力を感じた企業やクリエイターが、そういう“覚悟を決めている人たち”に惚れこんで、「彼らを手伝おう」と動き出しているのが直近の『VRChat』の潮流なのかなと感じています。 ■メタバースの「幻滅期」は訪れず、むしろ盛り上がりを見せるXR業界 ――バズワードでなくなった時の「幻滅期」が来ると思っていたら、意外とそうでもなかったという感じでしたね。これに関してはAppleが『Vision Pro』を発表したことも大きかったと思います。これによって一気に「次の時代」の到来を予感した企業は多いのではないでしょうか。 浅田:今年のXRデバイスに関するビッグニュースでいえば、『Vision Pro』の発表と『Quest 3』の発売の2つがやはり大きかったですね。 たまごまご:『Quest 3』は良いデバイスですよね。大体買った人は喜んでますし。 浅田:でも、『Quest 3』を体験した人ですら、『Vision Pro』を体験した人は「『Vision Pro』の方が良かった」と絶対に言うんですよ。体験した人から口々に絶賛の声しか出てこないのが、もはや怖かったほどです。 たまごまご:どのあたりが絶賛されていたんですか? 浅田:外装の造りが良いのはもちろん、あまりにも使い勝手がいいみたいなんです。『Vision Pro』はこれまでのXRデバイスと違って、コントローラーが存在しないんですよね。自分の手と目で操作する。視線で選択し、手で確定するといった動作が、当たり前にできすぎると聞きました。 それから、MRの体験の質に関しては、『Quest 3』ですらコンシューマー向けデバイスとしては現状最高クラスと言っていいくらいなんですよ。『Vision Pro』はそれを軽々と超えてくるようで、これが世に出た瞬間どうなってしまうんだろうと戦々恐々としているところです。ただ、ネックなのは50万近く(3,499ドル)する値段ですかね。 くさの:そこですよね。来年売り出しても誰が買うんだろうと薄々思っていました。 浅田:買う人は買うけれど、初期段階ではiPhoneのように手に取るようなものではないかもしれないですね。 たまごまご:あるいはiPhoneみたいに、分割払いのスタイルも出てくるかもしれませんね。 くさの:月々の支払い金額にもよりますが、50万から48万の分割ってなかなか時間がかかりますよね? ヘタすれば3年のうちに新しいものが2台は出ちゃいそうですね。 たまごまご:機種変更できたらいいですよね。『Quest 3』を買って『Quest 2』を持て余している僕からしたら、機種変更みたいな制度があればなあ、と思うところです(笑)。 ――価格に関して言うと、Macも昔は50万、100万が当たり前の世界でしたから、普及につれて廉価モデルが出たりと、徐々に下がっていくかもしれませんね。「空間コンピューティング」という言葉についてはいかがでしょう? 浅田:Appleの『Vision Pro』展開における勝ち筋はまさに「空間コンピューティング」という言葉にあると思っています。Metaも同様の言葉を使っていましたが、突然出てきた「VR」ではなく「コンピュータの発展系」だとする方が、普通の人にとってわかりやすい認知レイヤーになるじゃないですか。 「これをかぶると仮想世界に飛べます」とかいう話ではなく、「頭にかぶって操作するコンピューターです」と打ち出した方が、生活にどう使うといいのか、というイメージが伝わりやすいのかなと。今iPhoneって結構な値段しますけど、それでも買う人が多いのは、それが生活に役立つことが明白であるからだと思うんです。 翻ってVRデバイスの場合、現状では「そこまで広く役立つものではない」と思っていると思うので、そこを強化していくのが今後のXR産業のカギになるんじゃないかと思います。 ーー今後また世間のXRに対する認識も変わってきそうですね。では、最後のトピックに移りましょうか。 浅田:「ソーシャルVRで遊ぶ・活動するVTuberが増加」というトピックですね。少なくとも、過去イチ増えているのは事実のような気がしています。ソーシャルVRというか、特に甲賀流忍者ぽんぽこさんとピーナッツくんが手がけた『ぽこピーランド』に行っている人がめちゃくちゃ増えていますね。あれがVTuberと『VRChat』の交錯点として象徴的なコンテンツになっているんですよね。 周りの話を聞いていると、『ぽこピーランド』に行きたいがために3Dモデルを用意した、みたいな人もいたりして。付随して、VTuberだけでなくそのファンが『ぽこピーランド』見たさに『VRChat』を始めるという話も結構耳にしますね。『VRChat』には初心者向けの案内をやられているユーザーがいるんですが、その方々も「明らかに『ぽこピーランド』ができてから初心者が増えた」と話していましたね。 くさの:そう考えると、やっぱりぽこピーの影響力はすごいですね。 浅田:個人勢として真ん中を走っているコンビですし、あの二人に憧れてVTuberを始めた人も少なからずいるでしょうからね。 たまごまご:『ぽんぽこ24』で繋がっていったきっかけもいっぱいあるでしょうし、すごくいろんなところに影響を与えていますよね。 浅田:『ぽんぽこ24』も、ここ数年は『VRChat』に特設会場を用意してサテライト会場的な場を用意しているんですよ。去年の『ぽんぽこ24』の『VRChat』会場は僕も見に行ったんですが、たくさんVTuberさんがいらっしゃって。『VRChat』で活動している人と、一般のユーザーが当たり前みたいに同じ場所にいて、みんなで『ぽんぽこ24』をリアルタイムで見ているという奇妙な時間が結構あったのは印象深かったです。 今年は『ぽこピーランド』がサテライト会場的な場になっていて、「みんなで24時間配信を見ながらこの大きな遊園地で遊ぼう」みたいなことをしている人が多かったですね。 ーー『VRChat』で活動されているタレントさんで、最近注目している方はいますか? 浅田:最近だとエンジンかずみさんというVTuberの方が『VRChat』を現場にしたドキュメンタリーを出していて。一般ユーザーへの体当たり取材をする動画がかなりウケていますね。 たまごまご:あれは面白いですよね。本当に現場の声、忖度ゼロですからね。 浅田:若干センシティブな話題にもどんどん突撃していて、「なんだかこの人、おもしろいぞ」という感じで、じわじわ注目を集めてますね。 たまごまご:他にもウィンターズさん、オムライス食堂さん、93poetryさん、ゆめ心中さん、リロ氏さん……普段見かけるわけじゃないですが、のらきゃっとさんや九条林檎さんも活動されていますね。 浅田:のらきゃっとさんは先駆者ですからね。『ぽこピーランド』の件も踏まえて、少しづつVTuberの間でも『VRChat』に来る方が増えている印象です。現状のVTuber業界のような「爆発的な変化」が起きるタイミングがいつになるかは読めないので、長期的に見ていく必要がありますけど、早めに参入しておけばナレッジ的なアドバンテージも得られそうですし、そういう意味でもおすすめしたいところです。 たまごまご:急に来て入り浸れというわけではなくて、表現するときにソーシャルVRは便利だから使ってみてとか、たまにこっちでライブやってみない? とか、そんな気持ちですね。それから、目の前に観客がいる喜びを感じてほしいというのはすごくあります。 浅田:そうですね。「Project Little Lindo」というサークルのVTuberで、MIRA(鏡見みら)さんという歌の上手なバーチャルシンガーがいらっしゃるんですけど、ある日その方が『ポピー横丁』という飲み屋街風のワールドで路上ライブをしていたんです。 最初は「めちゃくちゃ歌が上手い人だな」くらいにしか思っていなかったんですけど、プロフィールを見たら「え? 知ってる人だ」ってビックリしちゃって。「なんでここで歌ってるんですか?」と聞いたら、「目の前でリアクションがあるところで歌うのって、すごく楽しいんです」って言っていたんですよね。 たまごまご:『ポピー横丁』は本当に路上感のある場所ですもんね。 浅田:そうですね。ストリートだからこそできることもあるし、そこで積んだ経験がどこかに生きるんだろうなとは思います。 今年、『VRChat』で活動する音楽ユニットたちが出演するライブ『VARTISTs』が下北沢のERAというライブハウスで開催されたんです。そのステージに立っていた人たちって、リアル現場がほぼ初めてなはずなのに、めちゃくちゃ堂々としてたんですよ。バーチャルな現場で積み重ねたものって、経験値の種類は違えど無視できない効果があると思います。 ■有識者たちが考える、2024年のVTuber業界・XR業界 ――最後に、ざっくりとしたものでもかまいません。みなさんによる来年以降の業界予測を伺いたいです。2024年のVTuber業界・XR業界はどのようになっていくと思いますか? たまごまご:ここまで話してきたように、今年は「VTuber」という存在がポップカルチャー化して、いろんな境界線がなくなったと思うんです。でも、同時に今後も『Live2D』を中心にストリーマー、配信者として頑張るVTuberの方々は、そちらの技術がどんどん磨かれていくと思います。 3Dでやっていきたい方々は、3Dモデルを作るのもフルトラ(フルボディトラッキング)を運用するのも比較的簡単になってきているので、そちらを活用していくようになると思いますし、2D中心・3D中心の二手に別れていくと思います。ゲームや雑談を中心にしたストリーマータイプと、VRを活用して歌やダンスなどの自己表現をしていく人という風になっていくんだろうなと。 その中でいえば、ダンス系VTuberは今まで伸びるのが難しかったジャンルでしたが、来年は伸びてほしいと個人的に思っていて。『VRChat』にいるダンスで伸びたい人たちも、ハードウェア面の制約で苦しい状態が続いていたので、ブレイクしたらいいなと思っています。 くさの:大枠は自分もたまごまごさんと一緒で、『VRChat』のパフォーマーと、ゲームや雑談のストリーマーとが、それぞれの道で日の目を浴びていくだろうと考えています。個人勢の方々もどんどんフックアップされていくだろうと思っていますね。 ただ、「VTuberである必要性があるのか」という存在意義の話が広がっていく可能性もあるのかなと思います。 配信をやるのであれば、あるいはパフォーマンスをするのであれば、バーチャル空間で活動しなくてもいいのではと考える人も増えると思うんです。そういうところとどう向き合うべきなのかというのは感じています。 まさに前編で話したようなリアルとバーチャルの在り方や境界線について、VTuber当人だけではなくファンの中でも考えることを迫られるタイミングが来るんじゃないかな。 ――リアルのタレントの方々がバーチャルに行くことを自然に受け入れられるけれど、リアルにくる人たちを果たして受け入れられるか、という問題ですね。これはたしかに、行き先が違うだけなのに、まったく別物に感じられますよね。 くさの:もちろん、奏みみさんのようにバーチャル/リアルの二刀流で活動していく方は今後も増えていくと思いますし、それが広がることも全然ありうる。けど、それが嫌だと感じるファンもきっと中にはいて、そこはすごく難しいなと思いますね。 浅田:たしかに、「バーチャルである必要があるのか」という自問によって辞める人が増えるかもしれないというのは、業界全体を見たら寂しいことではありますね。 ただ、一個人の選択としては決して悪いことじゃないと思うんです。その人が今やりたいことと照らし合わせて、進む道を変えるというのは、ポジティブな選択とも受け取れるのかなと。 あと、僕は社会的成功より自己実現の方がVTuberの在り方として良いと思っているんです。もちろん社会的成功が自己実現という人もいると思うので、有名になることが悪いことだとは言わないですけど、VTuberがそれだけに留まる存在じゃないというのは、それこそ宇推くりあさんが証明していて、そういう在り方があってもいいと自分は思ったんですよね。 VTuberって、「Tuber」って単語が入ってる以上「YouTuberに付随したタレント性」みたいなイメージがどうしても言葉としてあると思うんですが、そういったタレント的な活動だけでなく、社会に溶け込んで活躍できる存在になってくれたらいいなと思っています。だから、将来的に「VTuber」という言葉が“融けて”なくなってもいいと思うんですよね。 くさの:すごくわかります。僕もそう思ってます。 浅田:同時に、ここにいる方はその方向性で一致してるような気がするんですけど、それを嫌がる人もいるんじゃないかと思います。でも、本当に「バーチャル」という在り方で幸せになろうとするなら、言葉の枷を外すフェーズに入った方がいいのかなと。もっといろんな形になっていいし、その過程でリアルの姿で活動をすることが選択肢に入ってきても、それはそれでひとつの在り方なんだと思います。 くさの:言葉のお話でいうと、そもそもYouTuberやVTuber/バーチャルYouTuberって、「YouTube」というプラットフォームの名前を軸にしているじゃないですか。でもありえない話ではあるんですが、YouTubeがもしもなくなったら、どう名乗るんだろうと考えることがあって。サイトがなくなったら言いようがなくなってしまうとか、他のサイトに行ったらどう言われるんだとかを考えてしまうんですね。 もっと言ってしまうと、「バーチャル」という言葉もそうで、今は世の中にそれで伝わっているからそれでいいと思うんですけど、来年以降「バーチャル」という言葉すら足かせになりそうだなと思っているんです。 「リアルの人と何が違うんですか?」と言われたときに、実はそんなに違いがないとか、バーチャルな姿になってることだけが違いとして残っているだけだと、やっぱり自分の「バーチャルYouTuber」としての在り方や生き方を自問せざるを得なくなると思うんです。 浅田:外部からのVTuber定義論とかではなく、自分にとっての「バーチャルとは何か」というのは、どこかで考えないといけない段階に入っていくんでしょうね。
取材=三沢光汰、構成=村上麗奈、取材協力=浅田カズラ、草野虹、たまごまご