「性別の本質は、外見ではなく内面にある」トランスジェンダーの訴えが司法を動かした 「生殖不能手術を求める法律」は憲法違反か
それでも、卵巣摘出や陰茎形成の手術は受けなかった。 手術で男性の生殖能力を持てるわけではないし、健康リスクもある。生殖機能の部分は他人から見えないのだし、とらえ方は自分次第だ。 これまで、身体的特徴によって男女どちらかに分類する考え方に苦しめられてきた。体を男性に近づけるのは、その考え方に合わせることにならないか。「トランス型」だと受け入れ、自分らしく生きることが大事だと考えた。 海外では手術要件が撤廃された国が多くあり、アルゼンチンなど、性別変更に医師の診断書すら必要としない国も出てきている。世界保健機関(WHO)なども2014年に「手術要件は自己決定権や尊厳の尊重に反している」とする共同声明を発表した。 「性別の本質は体つきでなく、内面にある。いつか、性別を自分で決められる日が来る。それが世界の流れだ」 ▽「声を上げないのは存在しないのと同じ」 そんなとき、出会いがあった。岡山県新庄村に移住し、特産品のPRに携わっていた臼井さんは、仕事を通じて知り合った女性(45)と、パートナー関係になったのだ。2016年3月、岡山市に婚姻届を提出。不受理となったのを受けて16年12月、男性への性別変更を岡山家裁津山支部に申し立てた。司法の場に訴えたのはこんな思いからだ。「身体的特徴で性別を判断する社会に、一石を投じたい」
セクシャリティーについて考える集まりで得た「気づき」も胸にあった。 「声を上げないと、存在しないのと同じ」 手術を受けたくないトランスジェンダーもいるということを、社会に伝えてみたい。 ▽最高裁は「憲法違反の疑い」 ところが、予想を超えるバッシングに遭った。批判は「手術をしてこそ性同一性障害」と考える当事者からも来た。 そして予想どおり、手術を受けていない臼井さんの申し立ては、家裁津山支部、広島高裁岡山支部でいずれも退けられた。 くじけそうになったが、代理人を務めた弁護士からは励まされた。「あなたの声を最高裁まで届けてほしい。判例ができれば議論が生まれる」。真摯な姿勢に、勇気をもらった。 2019年1月、最高裁第2小法廷は臼井さんの訴えを退け、手術要件は「合憲」と判断した。裁判官4人の一致した結論だった。ただ、その決定文をよく読むと、手術要件には個人の自由を制約する面があり、その在り方は社会の変化に伴い変わるとも書かれている。「合憲かどうかは継続的な検討が必要」とも指摘していた。さらに、うち2人の裁判官がこんな補足意見も付けた。