【定年後の歩き方】「SNSで繋がった若者と事業を起こしたい…」63歳男性が500万円を失って学んだこと~その2~
今、有名人をかたり投資話を持ち掛ける、高級時計を海外で買い付ける仕事のはずが実際は詐欺だったなど、多くの詐欺が横行している。 その中でも、巨額化しているのが「ロマン」につけ込む詐欺だ。相手の恋心を利用したロマンス詐欺が知られているが、2024年10月1日、クラシックカーにまつわる詐欺で42歳の男が再逮捕された。男は、ヴィンテージカーの仕入れとレストア(復元)に対する投資を呼びかけ、これまでに56億円を集めていたが、事業の実態はなかったという。 康平さん(65歳)は「私の場合は詐欺ではなく、夢が実現しなかったというか……」と言葉を濁す。康平さんは建築資材メーカーを60歳定年で退職し、暇を持て余した3年目に、30代の男性から「一緒に事業を起こしませんか」と持ちかけられ、500万円出資してしまう。 【これまでの経緯は関連記事から】
日本の地方の埋もれている文化を掘り起こし、元気にしたい
康平さんはSNSを通じて、広く社交をしていた。8年待ちとも言われる予約困難店の料理に舌鼓を打ち、著名な酒の専門家が開催する試飲会に出入りもしていた。そこである30代の男性と知り合う。有名大学を出て、スタイリッシュで容姿が整った人物だ。 「彼は大学を出てから、大手広告代理店に入り、30歳のときに独立したと言っていました。その会社は、優れた起業家を輩出することで知られているので、彼に一目を置きましたし、信じる要因になったのです」 康平さんは、彼から「一緒にビジネスをしたい」と言われたときは、心の底から嬉しかったという。 「定年退職から3年間、食事会などに行くたびに“何をしているのですか?”と聞かれる。皆、輸入自動車会社を経営している、コンサルタントとして独立しているなどと言い、明日からタイだ、ミラノだと話している。私だって会社員時代は、建築資材調達のために50か国を回っていたし、北米には3年ほど駐在していたこともある。でも今は現役ではないから、そんな話はみっともなくてできませんけどね」 人から仕事を聞かれたとき、康平さんは「家業のアドバイスをしています」と答えていたという。 「ちっちゃな見栄(笑)。兄と相続で揉めてから、兄や甥っ子とは音信不通状態。でもね、父の事業を僕が継いでいれば、そういう未来があった。そうそう、先ほど話した父の相続についてですが、父は絶対に僕のほうが好きだった。兄は“6:4にしろ”と言いましたが、ガンとして譲らず、法律通り半分ずつにしてもらいました。兄は土地の評価額の半分を現金で私に支払った。父が死んだのは東日本大震災の後で、土地の値段が底値だったから、それでも兄は得をしている。今だったら、倍以上していますから」 相続税を支払った後も、手元に一億近い金がある。それは余裕とゆとりをもたらした。 「そこでSNSで知り合った人と、いろんなところに行くようになり、有名人とも知り合いになりました。実際、彼に500万円を渡して気づきましたが、SNSの人間関係は薄い。彼との共通の知人である38人も、誰でも友達になる“なんちゃって有名人”ばかりでしたから」 彼とは一体どのような関係だったのだろうか。 「僕は元々地方創生に興味を持っていました。資材の調達で国内もいろんな場所に行ったのですが、東京で想像しているよりも、地方は豊かなのです。石材や木材は世界的に評価されているものも多く、それを広めていきたいという話をしたら、彼が食いついてきた」