中国の石炭産地に「カーボンニュートラル」の試練 雇用縮小、財政逼迫、環境修復など難題が山積
中国政府は「2030年までに二酸化炭素(CO2 )の排出量を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラル実現を目指す」という国家目標を掲げている。そんな中、都市の発展を化石燃料に依存してきた石炭産業の城下町は、どのような課題に直面しているのだろうか。 【写真】中国の石炭出荷施設(国家能源集団のウェブサイトより) 山西省の非営利シンクタンク、科城能源環境創新研究院の最新レポートは、中国有数の石炭産地である同省を事例に、石炭産業の構造転換が地元の雇用、財政、環境などに及ぼす長期的影響を分析。長年にわたる石炭の大規模採掘が山西省の生態環境を脆弱にし、石炭依存のモノカルチャーが持続可能な経済発展を阻害していると指摘した。
■「公正転型」を省政府が提唱 カーボンニュートラルを目指す国家目標の下で、山西省は経済構造の全面転換を迫られている。それを進めるため、山西省政府は2024年の政府活動報告(施政方針)で「公正転型(公正な構造転換)」というコンセプトを初めて打ち出した。 その意味するところは、「環境にやさしい低炭素型の経済発展モデルへの移行を進めながら、地元の雇用や社会的弱者の生活などに与える負の影響に正しく対処し、社会的な公平・公正を確保する」というものだ。
だが、公正転型の実現は容易なことではない。上述のレポートは、山西省が克服しなければならない具体的な課題として、雇用の縮小、財政の逼迫、生態環境の修復の3つを挙げた。 なかでもインパクトが甚大なのが雇用の縮小だ。レポートの予想によれば、山西省では2030年以降、石炭の採掘量減少や採掘作業のスマート化による生産性向上などにより、石炭産業の雇用が激減する。 石炭の鉱山や選炭施設は、機械設備や資材、関連サービスなどの購入を通じて、地元のさまざまな業種の経営を支えている。採掘量が減少すれば、その影響は石炭産業以外の雇用にも波及するのが避けられない。
■問われるコスト負担の公平 レポートの推計によれば、山西省の石炭産業が間接的に支える就業人口は2022年時点で約335万人。しかし経済発展モデルの転換が進めば、2030年までにそのうち87万~160万人、2060年までに268万~331万人が転職を余儀なくされるという。 環境にやさしい低炭素型社会への移行は、(中国社会全体にとって)極めて公共性の高い取り組みだ。にもかかわらず、そのためのコスト負担はCO2
排出業種の労働者、企業、地域に偏在し、受益者が(コストを)自発的かつ公平に分担する形にはなっていないと、レポートは指摘する。 このような負担と利益のアンバランスを解消するには、構造転換の過程で生じる雇用問題に対処するだけでは不十分だ。公正な配分の原則に従い、産業構造の多様化や生態環境の修復などの課題にも同時に取り組むことが求められている。 (財新記者:楊玉琪) ※原文の配信は5月15日
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