ベスト・ラップは08後期モデルのマイナス1秒か?! 日産GT-Rの09年モデルに試乗したあの時、テスターの大井貴之さんは何を語ったのか?
480psから485psへ!
雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年2月号に掲載した日産GT-Rの2009年モデルのリポートを取り上げる。発売から1年。08年9月にニュルブルクリンクで開発された新しいサスペンション・セッティングを得た09年型GT‐Rを大井貴之さんが仙台ハイランドでテスト。果たしてその内容とは? 【写真6枚】武闘派水野GT-Rの09年モデルとはどんなクルマだったのか? 詳細画像はこちら ◆08後期モデル 480psから485psへ! 国産車でこんな数字を語る日が来るとは、夢にも思っていなかった。発売からちょうど1年、日本のフラッグシップ・スポーツである日産GT‐Rはさらなる進化を遂げた。 試乗のために訪れたのは、GT‐Rの開発に使われたホーム・コース、仙台ハイランドレースウェイ。仙台西部の山間につくられたサーキットは紅葉が始まった山々に囲まれ、思わず深呼吸でもしたくなるような穏やかな風景。しかし、ピット周辺の空気は和やかな試乗会場ではなく、GT‐Rの開発現場に飛び込んでしまったような緊張感が溢れていた。 通常、開発チームはメディアが試乗する前日などにテストしている場合が多いのだが、お構いなしの同時進行。これが水野流か? まずは基本、ということで08後期モデルから試乗をスタートしたのだが、あらためてこの進化に驚いた。 08前期モデルは、発売直後にデリバリーされた初期型のオーナー・カーを富士スピードウェイで2度走らせたことがあるが、2台とも印象は同じ。ストレートはびっくりするくらい速い。しかし、そのハンドリングはしなやかさに欠け、スイート・スポットの狭いクルマだった。世界でもトップ・クラスに路面がよい富士スピードウェイで唐突な挙動を示すクルマを、日本一路面が悪い仙台ハイランドで走らせたら苦労するに違いない。そう覚悟をして慎重にコースインしたのだが、08後期モデルは前期モデルとは別物と言えるほどちゃんと走った。 ステアリング・インフォメーションは格段に向上。強烈なブレーキングからコーナリングへの繋がりもドライバーの狙い通り。08前期は唐突なグリップ変化が発生するため急激にVDCが介入し不快に感じたが、それがない。おそらくラップ・タイムで1秒強はアップしている! 何よりも、操る楽しさが味わえるクルマに進化していた。 ◆「brembo」から「NISSAN」へ そして09モデル。08モデルは、車体番号以外で前期と後期を見分けることは出来ないが、08と09はいくつか見分けるポイントがある。 まず、ナンバー・プレートのマウントが廃止され、バンパー直付けに変更された。そして、ブレーキ・キャリパーのロゴが「brembo」から「NISSAN」に変更された。といってもブレンボ製が日産内製に変更されたわけではなく、ロゴが変更されただけ。ポルシェやフェラーリと一緒になったってことだ。 あとは、ボディ・カラー。ブリリアント・ホワイト・パールが追加され、特別色のアルティメイト・メタル・シルバーは磨き工程を増やし質感を向上。ホイール色も変更された。 性能的な数字で変わっているのは、最高出力が480ps/6400rpmから485ps/6400rpmへと5psアップしたこと。そして燃費が8.2km/リッターから8.3km/リッターへと0.1km/リッター向上。これは吸排気系を見直したなどというパーツの変更ではなく、生産精度の向上に合わせコンピューター制御の精度を上げた結果なのだという。もうひとつ、燃料タンクの容量が3リッター程度アップしている。これは航続距離を伸ばすためではなく、形状改良の結果と思われる。 そのほかプレス・リリースでは、新構造ショック・アブソーバーの採用やフロントのバネレート・アップを含むサスペンション・セッティングの改良程度のインフォメーションに留まっているが、水野さんによると、ジオメトリーも変更されている。 走り出してみると、ピット・ロードを走っただけで確かな違いを感じた。ハイランドの荒れたピット・ロードの、特に路面の悪そうな場所を走らせていたのだが、08後期よりさらにしなやかな印象。09モデルでは電子制御ダンパーの「コンフォート」と「スポーツ」の違いを従来よりもわかりやすくしたとのことだが、このときはスポーツ・モード。09モデルのしなやかさは、足の動きがよくなり、タイヤの接地性が上がったことによるものに違いない。 5psのパワーアップは480psの1%にすぎないが、体感イメージは20ps郡アップ! 夕方になって次第に外気温が低下してきたことも速さに繋がったのかもしれないが、0.05~0.1くらいブーストを上げたような気持ちよさ。 最高に気持ちよくなったのは、コーナリング! 08後期モデルよりさらに懐が深くなった印象で、コーナー進入の姿勢もつくりやすくなったし、08モデルではピーキーだったコーナリング中のアクセルON/OFFに対する挙動変化もマイルド。 なによりも立ち上がりのトラクションが格段に向上した。突っ張っていたダンパーやスタビを緩めたような印象だ。イメージとして、ベスト・ラップは08後期モデルに対してマイナス1秒は固い。しなやかになった足回りはタイヤに優しいため、コンスタント・ラップを較べたら大きなタイム差が出るに違いない。 文=大井貴之 写真=望月浩彦 (ENGINE2009年2月号)
ENGINE編集部