「税収1.3兆円増」は本当にすごいのか?/木暮太一のやさしいニュース解説
先日、「税収が1兆3200億円増えた」という新聞記事を目にしました。 いわゆるアベノミクスの効果で「円安」「株高」がおき、その影響で企業業績が改善、法人税収が想定を上回ったことなどが寄与した、という報道でした。 この記事が言いたいのは 「税収が1月(補正予算時)に予測した時よりも1兆3200億円多く、43兆9200億円になった」 ということです。 ―――「1月の予測から1兆円も増えたの? すごいね。やっぱりアベノミクスっていいんだね!」
予想より増えただけ
ただし、注意してみなければいけません。 比較対象が、「補正予算時の見積もり」となっています。つまり、「前に予想した金額と比べて増えた」と言っているだけなんです。 そもそも、その予想が妥当だったかによって変わってしまいますね。 また、金額を見ても「大したこと」がありません。 財務省は、毎年の税収推移を発表しています(図表)。それを見ると「増えた」と言っているのが、いかに微々たるものかがわかります。
もちろん、税収が増えるに越したことはありません。ですが、この程度増えたからといって、到底安心はできません。まだまだ景気が回復したとは言えないわけですね。 ―――「でも、とにかく予想より増えたのは良かった。これで少しは日本の借金返済ができるね」 本来であればそうなります。予想より税収が多ければ、借金返済に充てなければいけません。財政法という法律でも、「余った分の半分以上は、借金返済に充てること」と定められています。 ※財政法 第一章 第六条 「各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金のうち、二分の一を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない。」
使い道が大事
ですが、この法律には抜け道もあり、特例法をつくれば、借金返済に充てず、使えてしまいます。 つまり、「まだまだ景気が回復してないから」「いろいろ社会福祉も充実させなければいけないから」など、見つけようと思えばいくらでも「使い道」が出てきてしまいます。 メディアの論調としては、 どんどん景気が良くなっている! ほら、税収も増えたでしょ? だからたくさんお金使っちゃっていいんです! という雰囲気です。でも、先ほどの財務省のグラフを見ると、「そうでもない」ことがよくわかります。 1.税収が増えたといっても、大したことない 2.せっかく「予想」以上に国民から集められた税金は、丁寧に使い道を選ぶべき 国民としては、現状を正しく把握することが重要です。 ----- 木暮 太一(こぐれ・たいち) 経済ジャーナリスト、(社)教育コミュニケーション協会代表理事。相手の目線に立った伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学などで多くの講演活動を行っている。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ「命より重い!」お金の話』など著書36冊、累計80万部。最新刊は『伝え方の教科書』。