「失敗があるとエンジニアは強くなる」 H3ロケット打ち上げ成功までの2516日 挑戦を続けた技術者たちの記録
新型ロケットが指令破壊される異例の事態となり、日本の新型ロケット開発は足踏みを続けることになった。 日本の打ち上げがストップする中、アメリカではスペースXのイーロン・マスクや、アマゾンドットコム創始者のジェフ・ベゾスが、派手な打ち上げを繰り返していた。中国も負けていない。10年前と比べると成功した打ち上げは5倍になっていた。 一方、日本は、2022年のイプシロンロケット失敗をはじめ逆風が続き、2023年の打ち上げ成功もわずか2回にとどまった。
▼「世界に誇れるエンジンになった」 失敗を希望に変えて再びスタートラインへ
2023年10月、愛知県の飛島工場では、H3ロケット2号機が入ったコンテナが塩と御神酒で清められていた。いよいよ次の打ち上げに向け準備が始まったのだ。愛知県で積み込まれた機体は3日間の船旅で種子島へ運ばれた。 同年11月、打ち上げ3か月前となり、機体に1段エンジンLE-9を取り付ける作業が行われていた。去年の失敗後、「出口の見えない闇をさまよっているよう」と話していたプロジェクトマネージャのJAXA岡田だったが、8か月ぶりに会ったその表情には、笑顔が戻っていた。 岡田が「世界に誇れるエンジンになってきている」というほど、LE-9は万全のようだ。打ち上げ失敗の原因となった2段エンジンも、トラブルを起こした可能性のある部品の交換が行われた。不安や課題をひとつひとつ潰しながら暗闇の中を歩み続け、ようやく出口を見つけたようだ。
2024年1月、打ち上げ1か月前、ロケットの先端にRTF(リターン・トゥ・フライト)という文字が刻まれた。打ち上げに失敗した後、技術者たちが合言葉にしていたものだ。機体に記されたその文字は、全国のファンが寄せた3000ものメッセージで形作られていた。力強い後押しを受け、共に宇宙へと飛び立っていく。 打ち上げ4日前には、機体にふたをするクローズアウトという作業が行われた。 JAXA H3ロケットプロジェクトマネージャ 岡田匡史: 「エンジニアと会話しても不安感はあまりなくて、やり切ったというすがすがしい感じ。ただ、1回失敗してしまっているので、本当に何が起きるのか分からない。今度は何も起こらないでほしい、やり尽くしたんだから」