ホワイトハウスのカオスを目撃したジョン・ボルトン氏が指摘する、第二次トランプ政権の知られざる「アキレス腱」
■ 経験者が語る、トランプ氏と働くと何が大変なのか? ──マスク氏がCEOを務める企業が有利になるように、政治が動く可能性もあるのではないでしょうか。 ボルトン:マスクはビジネス上の利益を当然、考えているでしょう。マスクがトランプに、何か便宜を図ってほしいなどとお願いをしているかどうかに関しては、私は現時点では何も知りません。 ただ、マスクはテスラの生産拠点を中国にも置いています。マスクとともに政府効率化省(DOGE)のトップに就任した実業家のビベック・ラマスワミは、かつて「イーロンが習近平から助けを求められたら、サーカスのサルのように跳びはねない理由はない」と言っています。 ラマスワミはその時に、深い意味を持たずに発言したかもしれませんが、私はマスクには安全保障上のリスクがあると思います。 ──第一次トランプ政権では、側近たちが次々とトランプ氏に嫌気が差して、政権を離れていきました。ボルトンさんもまさにその一人です。トランプ氏と一緒に働くのは、何がそれほど大変なのでしょうか? ボルトン:トランプと一緒に働いたことがない人は「性格の不一致による衝突」だと考えますが、そうではありません。 まず、彼は安全保障上のリスクというものを全く理解していません。そのことを指摘した人たちは、次々と辞任したり、退任させられたりしました。これは大きな問題です。彼は政権を去った後の4年間で(人格が)変わっていませんから。 ──最近も、トランプ氏はさまざまな発言で注目を集めています。最近の発言の中で、問題を感じるものはありましたか?
■ 「あのコメントは認識が間違っている」 ボルトン:たくさんありますが、最近のもので言えば、「アサド政権の崩壊で、シリアで起きていることに米国は無関係だ」といったコメントです。この認識は間違っている。 ダマスカスを現在支配しているハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)はISIS(イスラム国)の分派です(※)。今、中東に新たなテロ国家が出現することは大変危険です。シリアや中東で起きている事態の内実は非常に複雑ですが、トランプは問題の本質を理解していないから「もう関わらない」といった姿勢が取れるのです。 ※HTSの前身であるヌスラ戦線はISISと敵対関係にあったという指摘もある(「シリアで新たな独裁が始まる」は本当か? アサド政権を倒した反体制派組織「HTS」の意外な素顔) ──イスラエルを中心とした中東情勢やウクライナ戦争に関して、トランプ氏がどのような決断をしていくか注目が集まっています。 ボルトン:どちらの戦争にも、なるべく関わりたくないのが彼の本音です。自分の期間中に始まった戦争ではないということを強調しています。ウクライナとロシアが、そしてパレスチナとイスラエルが、どのような形で戦争の決着を迎えようが彼には関心がありません。 これは、イスラエルからするとありがたい展開です。イスラエルはイランの核開発を潰したいので歯止めをかけてほしくありません。一方、ウクライナからすると、自国の領土をロシアに割譲するわけにはいかないので、米国がここで手を引くのは大きな懸念材料です。 ただ、またここに帰結してしまうのですが、相手はあのトランプです。今日こうだと言っても、明日にはまた全く違うことを口にする。ですから、就任式で公式に何が発表されるかです。そこで語られることが真剣に議論すべきことになるでしょう。